海上保安レポート 2016

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 法治平安の海を護る


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る


語句説明・索引


図表索引


資料編

1 治安の確保 > CHAPTER VII 海賊対策
1 治安の確保
CHAPTER VII 海賊対策

全世界の海賊及び海上武装強盗(以下「海賊」という。)事案発生件数は、世界各国や海事関係者の懸命な取組みにより近年減少傾向にあるものの、東南アジアでの海賊発生件数は増加傾向にあり、また、ソマリア周辺海域においても引き続き海賊の脅威が存在しています。

主要な貿易のほとんどを海上輸送に依存する我が国にとって、航行船舶の安全を確保することは、社会経済や国民生活の安定にとって必要不可欠であり、極めて重要な課題です。

海上保安庁では、海賊対処のために派遣されている海上自衛隊の護衛艦への海上保安官の同乗、ソマリア沖・アデン湾や東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関に対する法執行能力向上支援等により、海賊対策を実施しています。

平成27年の現況
ソマリア沖・アデン湾の海賊について

ソマリア沖・アデン湾における海賊発生件数は、各国海軍等による海賊対処活動、商船側による乗り込み防止のための自衛措置、民間武装警備員の乗船等が相まって功を奏し、近年極めて低い水準で推移しており、平成27年には海賊事案は発生していません。しかしながら、ソマリア海賊発生の背景とされる同国内の脆弱な経済状況や、不安定な治安等の問題は解決しておらず、依然としてソマリア沖・アデン湾の状況は予断を許さない状況にあり、国際社会がこれまでの取組みを弱めれば、状況は容易に逆転するおそれがあります。海上保安庁では、海賊対処のために派遣された海上自衛隊の護衛艦に、海上保安官8名を同乗させ、海賊の逮捕、取調べ、証拠収集等の司法警察活動に備えつつ、自衛官とともに海賊行為の監視、情報収集等を行っており、平成21年の第1次隊を派遣して以降、平成27年度末までに合計24隊192名を派遣しています。また、平成28年2月には、ジプチ共和国・セーシェル共和国に航空機を派遣し、各国海上保安機関と連携して海賊の護送、引渡し訓練を実施しました。

また、平成25年11月に施行された「海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法」に基づき、小銃を所持して警備を行う民間武装警備員の技能確認や対象船舶の我が国入港時の立ち入り確認等、同法の的確な運用に努めています。

さらに、海上保安庁では、これらの取組みのほか、同海域の沿岸国海上保安機関が自立的に海賊対処等の法執行活動が行えるよう、同機関職員に対する能力向上等のための支援を行っています。(ソマリア沖・アデン湾の沿岸国海上保安機関への能力向上支援については、「特集 法治平安の海を護る II アジアの海を法治平安の海へ 3 海上保安政策課程における能力向上支援」で詳しく説明していますのでご覧ください。)


ソマリア沖・アデン湾における護衛活動海域
ソマリア沖・アデン湾における護衛活動海域

東南アジア海域の海賊について

平成27年の東南アジア海域における海賊の発生件数は147件であり、そのうち、約7割がインドネシア領海及びその周辺の海域において発生しています。同インドネシア周辺海域の海賊の発生件数の増加に伴い、東南アジア海域の海賊の発生件数は近年増加傾向にあるものの、その他の海域については比較的低い水準を維持している状況です。

海賊事案の主な犯行形態は、錨泊中や停泊中の船舶に忍び込み、現金、乗組員の所持品、船舶予備品等を盗む窃盗及び海上武装強盗事案が多く認められます。

また、武装した海賊が小型タンカーに移乗し、乗員を脅迫等して、別に用意した小型タンカーに積荷の油製品を移し変え強奪するといった事案が、平成26年、27年とも12件発生しております。

海上保安庁では、東南アジア海域等における海賊対策として、同海域等の沿岸海上保安機関に対して法執行能力向上支援を実施するとともに、連携・協力関係の構築推進に取り組んでおり、その一環として、平成12年以降、毎年、同海域等の沿岸国に巡視船や航空機を派遣しています。

平成27年度においては、平成27年4月から5月にかけフィリピン及びベトナムへ、平成28年1月にインド及びシンガポールへ巡視船を派遣し、各国海上保安機関との連携訓練等を実施しました。

さらに、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)に基づきシンガポールに設置された情報共有センター(ISC)に職員を派遣し、海賊情報の収集と分析を実施しています。

そのほか、東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関職員を我が国へ招へいし、法執行能力向上を目的として研修を実施しています。(東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関への能力向上支援については、「特集 法治平安の海を護る II アジアの海を法治平安の海へ 2 アジア海上保安機関に対する技術的向上支援」で詳しく説明していますので、ご覧ください。)

現場の声
海上輸送の安全・安心のために!!

第23次ソマリア周辺海域派遣捜査隊 隊長 藤本 雅治


我々、第23次ソマリア周辺海域派遣捜査隊8名は、海上自衛隊の護衛艦2隻に同乗し、平成27年11月からアデン湾における海賊事案が発生した場合の司法警察活動に備えつつ、海上自衛官とともに警戒監視や情報収集活動等に従事しています。

身体捜検
身体捜検

ソマリア・アデン湾を航行する商船の多くは、海賊の接近・侵入を阻止するために、自船の周囲への放水、レーザーワイヤーの設置、民間武装警備員の配置など最大限の警戒をしており、海賊の襲撃を恐れる商船の緊張感が伝わってきます。

護衛艦上で監視警戒にあたる派遣捜査隊
護衛艦上で監視警戒にあたる派遣捜査隊

我々派遣捜査隊は、いつ海賊事案が発生するか分からない状況下において、常に高い士気と緊張感を維持しております。

日本から遠く離れた海域であることや、40度を超える気温、季節風の影響による大時化といった苛酷な環境での任務ではありますが、主要な貿易のほとんどを海上輸送に依存する我が国にとって、社会経済や国民生活の安定に必要不可欠な航行船舶の安全を確保するという重要な任務に、海上自衛官とともに従事していることを誇りに思うとともに、今後とも、ソマリア・アデン湾を航行する船舶の安全・安心の確保のため、引き続き、海上自衛官と共に任務を遂行していきます。

今後の取組み
フィリピン沿岸警備隊巡視船との海賊対策等連携訓練
フィリピン沿岸警備隊巡視船との海賊対策等連携訓練

海上保安庁では、今後とも、海賊対処のために派遣される海上自衛隊の護衛艦に海上保安官を同乗させるほか、引き続き、ソマリア沖・アデン湾及び東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関に対する法執行能力向上支援に取り組んでいくとともに、関係国、関係機関と連携・協力しつつ、海賊対策を推進していきます。


海賊の発生件数
海賊の発生件数