海上保安レポート 2016

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 法治平安の海を護る


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る


語句説明・索引


図表索引


資料編

特集 法治平安の海を護る > II アジアの海を法治平安の海へ > 3 海上保安政策課程における能力向上支援
特集 法治平安の海を護る
II アジアの海を法治平安の海へ
3 海上保安政策課程における能力向上支援

国際社会全体の平和と繁栄のためには、平成25年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略」にうたわれているとおり、「力ではなく、法とルールが支配する海洋秩序」の強化が極めて重要です。

そのため、海上保安庁が各国海上保安機関の能力向上を効果的に支援し、相互理解を深めることが、法とルールが支配する海洋秩序の強化に大いに貢献することとなると期待されています。


開講に至る経緯

海上保安庁では、平成16年に日本財団と協力のうえ、「第1回アジア海上保安機関長官級会合」を開催し、アジア地域における海上保安分野の課題について広く議論を行いました。

同会合ではアジア地域の18の国と地域が参加し毎年開催され、各国の相互理解の醸成や情報共有に貢献してきました。「まずは人材育成分野の協力を最優先として議論する。」との審議結果と日本財団の強力な後押しを受け、海上保安庁は、平成23年から3回にわたり、「アジア海上保安初級幹部研修(AJOC)」を実施しました。

この研修は、東南アジア4か国の海上保安機関と海上保安庁の初級幹部を対象に、海上保安大学校における英語による授業や施設見学等を通じ、海上法執行を含む、幅広い海上保安に関する知識を教授するとともに、研修生が相互理解を深めることを目的とした1年間のコースでした。


アジア海上保安初級幹部研修
アジア海上保安初級幹部研修

また、海上保安庁は、同研修の実績をふまえ、日本財団との間で研修内容をレベルアップした新たなプログラムを開設すべく検討を行いました。

具体的には、

  1. 研修内容の質の向上と研修生のインセンティブを高めるための修士号の取得

  2. 英語での授業をさらに充実

  3. 国際法と事例研究の深化

  4. 修士課程に相応しい演習の実施

などを検討項目とし、学識者による委員会を設置するなどして調査・検討を開始し、その結果、政策研究大学院大学と海上保安大学校が連携して実施する1年間の修士課程である「海上保安政策課程」を設置することとし、平成27年10月に開講しました。


学生による航空基地視察
学生による航空基地視察
学生相互のプレゼン
学生相互のプレゼン


海上保安政策課程の目的と内容

海上保安政策課程は、アジア諸国の海上保安機関の相互理解の醸成と交流の促進を通じて、海洋の安全確保に向けた各国の連携協力、そして「力ではなく、法とルールが支配する海洋秩序」の強化の重要性について認識の共有を図るため、海上保安庁及びアジア各国の海上保安機関の若手幹部職員を対象として、世界で初となる海上保安政策に関する修士号を得るにふさわしいレベルの知識の修得を目的としています。本課程では、その教育を通じ、(1)高度の実務的・応用的知識、(2)国際法・国際関係についての知識・事例研究、(3)分析・提案能力、(4)国際コミュニケーション能力を有する人材を育成することを目指しています。なお、本課程は、海上保安大学校、政策研究大学院大学、国際協力機構(JICA)及び日本財団が共同で実施するものです。


法の支配に基づく海洋秩序維持のための支援
法の支配に基づく海洋秩序維持のための支援

対象者

海上保安庁及びアジア各国海上保安機関の初級幹部職員で、以下の条件を満たす者

  • 学士以上の学位を有するもの
  • 海上保安機関の職員で、5年以上の実務経験を有する者
  • 40歳未満の者
  • 就学に必要な英語能力を有するもの

年間スケジュール(平成27年度現在)
年間スケジュール(平成27年度現在)

カリキュラム
カリキュラム


今後の展望

本課程は、わが国の国家安全保障戦略に沿ったものであり、安倍内閣総理大臣も、平成27年度海の日特別行事総合開会式等において、「国際社会全体の平和と繁栄のため、海で繋がる同士と、知識や経験を分かち合うのが日本の使命です。この秋、世界で初となる海上保安政策の修士課程を新たに開設し、アジア各国から幹部候補生を受け入れます。単なる知識の習得ではなく、波濤を越えて、アジア全体で「思いを共有する」、そんな教育を目指したい。」と述べています。

今後は、教育内容の充実化を図るとともに、さらに多くの国から多数の学生の参加を得て、本課程を永く継続し、「力ではなく、法とルールが支配する海洋秩序」の強化という共通認識に基づく、海上保安分野の国際ネットワークの確立を強力に推進していく必要があります。

学生の声

海上保安庁 一等海上保安正 米沢 夏希


本庁に在籍していた際、当庁とインドネシアの海上保安機関との合同訓練実施にあたり、各種調整を実施する機会に恵まれ、国際法をはじめとする高度な専門知識の必要性を痛感しました。現場の業務を通じて感じた問題意識や当庁の現状・全体像をふまえ、もう一度勉強に励みたいと思い、本課程を希望しました。

開講以来、英語による講義のハードルの高さを身にしみて実感しています。開講から半年が経ち、聞き取りや議論する力も最初に比べて進歩したように感じていますが、引き続き自己研鑽に努めていきたいと思います。

国籍も違えば宗教も違う、他国の海上保安機関職員と理解し合えるよう努力を続けていく中で、強い絆で結ばれた人間関係を構築し、国際的ネットワークの確立につなげていければと思っています。


ベトナム海上警察 大尉 Bui The Duong


私が本課程に出願したきっかけは、部内の人事担当部署からの指示です。

ベトナム海上警察では2013年の組織改正以降、日本や米国を始めとした海外のコーストガードとの協力関係の強化にあわせ、国内外における職員の研修・訓練に力を入れています。私は2004年の入庁以来ずっと「海洋環境保全」を担当しており、2014年にはJICA集団研修「救難・防災コース」に参加しました。その後光栄にも海上保安政策課程の入学試験に合格し、2015年10月から本課程で学んでいます。

私はこの課程において、国際法、国際海洋法を始めとした幅広い分野に関する講義や議論、ポリシーペーパー(修士論文に相当)執筆を通じてコーストガード職員として大変重要な船舶の航行安全や海上安全保障に関する高度な実務的及び理論的な知識を深めるとともに、本課程のクラスメイト達との一生涯の絆を構築したいと思います。