海上保安レポート 2016

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 法治平安の海を護る

  1. 領土・領海の堅守と海洋権益の保全
  2. アジアの海を法治平安の海へ 

海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る


語句説明・索引


図表索引


資料編

特集 法治平安の海を護る > II アジアの海を法治平安の海へ > 2 アジア海上保安機関に対する技術的向上支援
特集 法治平安の海を護る
II アジアの海を法治平安の海へ
2 アジア海上保安機関に対する技術的向上支援

海上保安庁では、東南アジアの海上保安機関を中心に、世界79か国3地域から研修員を受入れ、あるいは職員を派遣して多年にわたる能力向上支援を行っています。

また、機関設立時の支援や、長官級による会合を主導するなど、地域の海上保安能力向上を目指し、国家安全保障戦略に即した連携・協力を推進しています。

*国家安全保障戦略:「海洋については、地域的取組その他の取組を推進し、力ではなく法とルールが支配する海洋秩序を強化することが国際社会全体の平和と繁栄に不可欠との国際的な共有認識の形成にむけて主導的役割を発揮する。」(「国家安全保障戦略」第IV章4(2)「法の支配の強化」)


アジアにおける海上保安機関能力向上支援の取組み
アジアにおける海上保安機関能力向上支援の取組み

能力向上支援の歴史

我が国周辺海域における海上テロの未然防止、国際組織犯罪の摘発、海賊対策等により治安を確保し、同時に海上交通の安全確保をすることが、我が国の安定した経済活動を支える上でも極めて重要です。そのためには、海に接する周辺国の海上保安機関と、治安、安全、救難、環境等の広い分野において連携・協力することが重要です。

また、我が国にとって生命線といえる海上輸送ルートである東南アジア海域における海上交通の安全確保と治安の確保は、我が国への物資の安定供給と我が国への密輸・密航防止の観点から、不可欠なものです。海上保安庁では、開庁以来長期にわたり、東南アジアをはじめとした周辺国に対し、海上保安庁が有する知識技能を伝え、各国の海上保安能力の向上を支援しています。


支援の流れ
支援の流れ

諸外国への取組み内容
1.東南アジア

海上保安庁では、東南アジア諸国の海上保安機関に対する海上保安能力向上支援のため、独立行政法人国際協力機構(JICA)の枠組みにより、海上犯罪取締り、救難・環境防災等の海上保安分野に関して、東南アジア諸国等の海上保安機関の職員を日本に招へいし、研修を実施しているほか、海上交通等様々な分野の専門的な知識を有する海上保安官をJICA専門家として各国に派遣しています。また、東南アジア諸国へ巡視船を派遣し、派遣先国で乗船研修や連携訓練を実施しています。


ベトナム

ベトナムには、海上法執行等を業務とするベトナム海上警察や海難救助、海上防災等の業務を行う、海運総局海上捜索救難調整センター(海運総局)が設置されています。

これまでに、JICA専門家の派遣等を通じて技術協力を行い、捜索救助に関する沿岸無線通信技術や、航行安全に関する技術指導を行いました。

また、JICA事業等により、水路測量、航行安全、救難・環境防災、海上犯罪取締り等の各種研修に、海運総局やベトナム海上警察から研修生を受け入れており、平成27年までに57名を受け入れています。

平成27年9月、海上保安庁とベトナム海上警察は、海上法執行機関として、安全で開かれ安定した海を維持することが両国の繁栄に寄与するとの価値観を共有し、海上保安分野にかかる人材育成、情報の共有と交換の維持などについて覚書を締結しました。今後は、海上保安分野に係る業務分野全般を対象とした、協力支援のマスタープランを策定して積極的に協力していきます。


フィリピン

フィリピンでは、フィリピン沿岸警備隊(PCG)に対して支援を実施しています。平成12年から、海上保安行政全般に関するアドバイザーとして、同隊に専門家を派遣しているほか、平成14年から平成24年までの10年間、専門家を追加派遣し、海難救助、海洋環境保全・油防除、航行安全、海上法執行、教育訓練の分野における人材育成支援のためのJICA技術協力プロジェクトを実施しました。

平成25年からは、海上法執行実務の能力強化支援のための技術プロジェクトを実施しています。


インドネシア
VTS運用における実技指導
VTS運用における実技指導

インドネシアでは、平成18年、海軍や海上警察、海運総局等の海上保安行政を実施している様々な機関の業務を調整する「海事保安調整会議」(BAKORKAMLA)が設立されました。海上保安庁では、同調整会議の設立以後、平成23年5月まで、海上救難防災対策や同調整会議の体制強化等に関する支援を行ったほか、平成24年1月からは、マラッカ・シンガポール海峡の海上交通安全のために我が国が供与した船舶通航サービス(VTS)センターの運用能力向上のため、運輸省海運総局にJICA専門家として海上保安官を派遣しています。また、同国のVTS運用における実務的素養を育成するため、平成26年1月及び6月には、海上保安庁海上交通センターの運用管制官等を派遣し、実技指導やVTS運用についてのワークショップを実施しました。


2.ソマリア沖・アデン湾

海上保安庁では、ソマリア沖・アデン湾の沿岸国に対しても、東南アジア諸国への支援の経験をふまえた様々な支援を行っています。

平成27年5月から6月にかけて、JICAの枠組みによる「海上犯罪取締り研修」にソマリア沖・アデン湾の沿岸国海上保安機関職員を招へいし、海賊対策に関する講義や捜査資器材取扱い研修等を実施しました。本研修では、平成20年以降ソマリア沖・アデン湾の沿岸7か国から64名の海上保安機関職員が参加しています。


3.各国水路機関への支援

海上保安庁では、昭和46年から40年以上にわたり、独立行政法人国際協力機構(JICA)と協力し、アジアやアフリカ等の開発途上国において水路測量業務に従事する水路技術者を対象とした集団研修を毎年実施しています。これまでに40か国から約400名の水路技術者が参加し、各国の水路業務分野で活躍する人材を輩出しています。


研修生へ指導する海上保安官(1)
研修生へ指導する海上保安官(1)
研修生へ指導する海上保安官(2)
研修生へ指導する海上保安官(2)