海上保安レポート 2025

はじめに


TOPICS 海上保安の1年


特集 平和で美しく豊かな海


目指せ!海上保安官


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 生命を救う

2 治安の確保

3 領海・EEZを守る

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 海の事故を防ぐ

7 海の事故を防ぐ > CHAPTER II. ふくそう海域・港内等の安全対策
7 海の事故を防ぐ
CHAPTER II. ふくそう海域・港内等の安全対策

海上保安庁では、海上交通の安全確保を図るため、海上交通ルールを遵守するように指導を行っており、特に、船舶交通がふくそうする海域においては、航路を閉塞するような社会的影響が著しい大規模な船舶事故の発生数を「ゼロ」とすることを目標として、海上交通センターにおいて24時間体制で的確な情報提供や航行管制を行うなど、船舶事故の未然防止に努めています。

令和6年の現況

船舶交通がふくそうする東京湾・伊勢湾・名古屋港・大阪湾・備讃瀬戸・来島海峡及び関門海峡での船舶事故隻数は634隻と、船舶事故全体の約3割を占めています。これらの海域で事故が発生した場合には、航路の閉塞や交通の制限により物資輸送が滞ることで、国際貨物輸送の99%以上(重量ベース)を海上輸送に頼る我が国の経済活動に大きな影響を及ぼします。海上保安庁では、ふくそう海域等での海上交通の安全を確保するため、次の取組を実施しています。

1 海域毎の交通ルール及び安全対策

海上の交通ルールには、基本的なルールを定めた「海上衝突予防法」のほか、特別なルールとして東京湾・伊勢湾及び大阪湾を含む瀬戸内海に適用される「海上交通安全法」、法令で定める港に適用される「港則法」があります。海上保安庁では、これらの法令を適切に運用することで、海上交通の安全確保を図っています。

ふくそう海域における安全対策

海上交通の要衝となっている東京湾・伊勢湾・名古屋港・大阪湾・備讃瀬戸・来島海峡及び関門海峡には、海上交通センターを設置して、船舶の動静を把握し、航行の安全に必要な情報の提供や、大型船舶の航路入航間隔の調整を行うとともに、巡視船艇との連携により、通航方式に従わない船舶への指導等を実施しています。

港内における安全対策

港則法に基づき、全国の87港を特定港に指定し、船舶の入出港状況の把握、危険物荷役の許可、停泊場所等の指定を行っており、また、一部の港においては船舶の出入航管制を行っています。

沿岸における安全対策

AISを活用した航行安全システムを運用し、日本沿岸において乗揚げや走錨のおそれのあるAIS搭載船に対して注意喚起や各種航行安全情報を提供しています。

2 激甚化・頻発化する異常気象等に対する事故防止対策

近年の台風等の異常気象が激甚化・頻発化する状況を踏まえ、さらなる事故防止対策の強化のため、令和3年7月1日に施行された海上交通安全法等の一部を改正する法律により、
● 異常な気象・海象が予想される場合の勧告・命令制度
● 海上交通センターによる情報提供、危険回避措置の勧告制度
などが創設されました。

これによって、特に勢力の強い台風などが東京湾、伊勢湾、大阪湾を含む瀬戸内海を直撃すると予想される場合、大型船等の一定の船舶に対し、湾外などの安全な海域への避難等を勧告(湾外避難等勧告)することなどができるようになり、令和4年9月には「瀬戸内海西部海域」を対象として、この勧告を初めて発出しました。

また、令和6年にあっては、8月に台風7号が関東地方に接近した際は、「東京湾」、また、台風10号が瀬戸内海に接近した際は「瀬戸内海西部海域」を対象として、この勧告をそれぞれ発出し、船舶事故の未然防止に寄与しました。

海上保安庁では、引き続き、台風等の異常気象時における船舶交通の安全確保に努めていきます。

今後の取組
海域の監視・情報提供体制の強化

船舶事故の未然防止を図るため、レーダーや監視カメラ等、海域の監視体制を強化するとともに、船舶に対して、自然災害や海域の状況に関する、より正確な情報を提供していきます。

船舶の航行安全のための技術開発

航行管制業務において、船舶の衝突、走錨等の危険を回避するための新たな技術開発を推進するほか、カメラ画像から船舶の位置を把握する技術を開発し、船舶の航行安全の向上を図ります。

自動運航船の実用化に向けた安全対策の検討

国際海事機関(IMO)において、自動運航船の安全運航のために必要な新たな国際ルールを令和14年に発効させることを目指し、具体的な検討が進められており、今後、既存の海事関係諸条約の解釈の整理や改正に関する議論が一層加速することが見込まれます。

そのような中、自動運航船の実用化に関し、船舶交通の安全確保の観点から、IMOにおける「1972年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約(COLREG)」の解釈の整理や改正に関する国際的な議論の結果を踏まえ、COLREGに準拠している海上衝突予防法の解釈の整理や必要に応じ他の海上交通法令の改正に関する検討等を行います。

港内における燃料供給体制の構築

近年、カーボンニュートラルの実現に向けた「脱炭素化」の取組が加速するなか、すでに運航しているLNG燃料船以外にも水素・アンモニア等を燃料とする船舶の開発が進んでいるため、これら船舶に対しての燃料供給に必要な航行安全体制の構築に努めます。