犯罪は国際犯罪組織が関与するものも発生し、事故・災害は大規模化する傾向にある中、一つの国が管轄権を行使できる海域には制約があります。
そのため、海に関する問題は、一つの国で解決することが困難なものも多く、海でつながる諸外国と連携・協力して対処することが極めて重要です。海上保安庁では、諸外国との合同訓練や共同パトロール等を通じ、これら海上保安機関間の協力関係を実質的な活動に発展させるよう主導し、様々な分野で連携・協力を図っていきます。
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特集 平和で美しく豊かな海
特集2 諸外国との連携・協力
犯罪は国際犯罪組織が関与するものも発生し、事故・災害は大規模化する傾向にある中、一つの国が管轄権を行使できる海域には制約があります。 そのため、海に関する問題は、一つの国で解決することが困難なものも多く、海でつながる諸外国と連携・協力して対処することが極めて重要です。海上保安庁では、諸外国との合同訓練や共同パトロール等を通じ、これら海上保安機関間の協力関係を実質的な活動に発展させるよう主導し、様々な分野で連携・協力を図っていきます。 多国間での連携・協力
世界海上保安機関長官級会合(CGGS:Coast Guard Global Summit)
海上保安庁では、法の支配に基づく海洋秩序の維持等の基本的な価値観を共有し、世界の海上保安機関が結集して連携・協力を深めるため、平成29年から世界各国の海上保安機関等のトップが一堂に会する「世界海上保安機関長官級会合」を日本財団とともに創設し、開催してきました。 第1回(平成29年)および第2回(令和元年)では安倍総理大臣が、第3回(令和5年)では岸田総理大臣がレセプションにおいてスピーチし、世界各国から来日した海上保安機関等のトップを前に、海上保安機関による連携・協力の重要性を発信しました。 ![]() 第3回会合を前にスピーチする岸田総理大臣 ![]() 第3回会合では、96の海上保安機関等のトップ等が出席した 第3回世界海上保安機関実務者会合
〜日伊共同体制で実施〜 令和6年10月23日から24日まで、イタリア沿岸警備隊主催による第3回世界海上保安機関実務者会合がオンラインで開催されました。世界海上保安機関長官級会合は、第1回(平成29年)から海上保安庁と日本財団との共催により開催してきましたが、今回は初めて日本以外の国であるイタリアが主催することになりました。海上保安庁は主催者であるイタリア沿岸警備隊とともに、実務者会合の共同議長(海上保安庁:中川哲宏国際戦略官、イタリア沿岸警備隊:ジュリオ・ピロディ国際課長)を務め、議論をリードしました。 実務者会合には世界中から約70の海上保安機関等の実務者が参加し、令和7年9月にローマ(イタリア)において開催される予定の第4回世界海上保安機関長官級会合の議題案について検討し、「海洋の健全性及び気候変動」「AIと海洋状況把握」「脱炭素燃料」「海上法執行」の分野を取り扱うことが参加者で合意されました。また、先進的な成功事例や経験、人材育成等の有益な情報を海上保安機関間で共有するために運営している専用ウェブサイトについて、運営者である海上保安庁からその更新状況を説明するとともにウェブサイトの活性化について話し合いが行われました。さらに、海上保安庁が主導してきた世界の海上保安機関等職員向けの人材育成オンラインプログラムをより効果的に継続的かつ計画的に実施するため、海上保安庁から3か年計画等について提案を行い、参加者から支持されました。 海上保安庁は、この会合の枠組みを世界の海上保安機関間の連携・協力のプラットフォームとして有効に機能・持続させていくために、引き続き貢献していきます。 ![]() 日伊共同議長とオンライン参加者 ![]() 会合の様子(イタリア沿岸警備隊本部) 北太平洋海上保安フォーラム(NPCGF)
北太平洋海上保安フォーラム(NPCGF)は、北太平洋地域の6か国(日本、カナダ、中国、韓国、ロシア、米国の海上保安機関の代表が一堂に会し、北太平洋の海上の安全・セキュリティの確保、海洋環境の保全等を目的とした各国間の連携・協力について協議する多国間の枠組みであり、海上保安庁の提唱により、平成12年から開催されています。参加6か国の海上保安機関は、このフォーラムの枠組みのもと、北太平洋の公海における違法操業の取締りを目的とした漁業監視パトロールや、現場レベルでの連携をより実践的なものとするための多国間多目的訓練(MMEX)等を行っています。また、今後の連携・協力の方向性やこれまでの活動の成果について議論するため、例年、長官級会合(サミット)と、実務者による専門家会合を開催しています。令和6年9月には、長官級会合が東京において開催され、参加国が連携して実施する取組及び今後の活動の方向性について議論が行われたほか、海上での犯罪取締り等に関する情報交換も行われ、北太平洋の治安の維持と安全の確保における多国間での連携・協力の推進を引き続き実施していくことが、確認されました。 また、今回の会合では、治安維持や安全確保以外の分野について議論するビジネスランチミーティングを初めて実施し、海上保安大学校教授が「海上保安官のLWB(ライフワークバランス)に関する調査研究」について発表し、議論しました。 ![]() 長官級の集合写真 ![]() 議長を務める海上保安庁長官 ![]() ビジネスランチミーティング ![]() 多国間多目的訓練の様子 アジア海上保安機関長官級会合(HACGAM)
アジア海上保安機関長官級会合(HACGAM)は、海上保安機関の長官級が一堂に会して、アジアでの海上保安業務に関する地域的な連携強化を図ることを目的とした多国間の枠組みであり、海上保安庁の提唱により、平成16年から開催されています。 22か国1地域2機関がメンバーであり、令和6年9月に長官級会合が韓国・仁川で開催され、18か国・1地域・2機関が参加し、メンバー間の連携を維持・発展させることについて合意がなされました。 海上保安庁は、アジア地域の諸外国海上保安機関と、ウェブサイトも活用しつつ地域的な連携強化に取り組みます。 ![]() 第20回アジア海上保安機関長官級会合(韓国) ミニラテラルの連携・協力
海上保安庁では、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、これまで多国間・二国間の協力枠組みを推進してきました。 更なる国際連携・協力を推進するため、これまでの協力枠組みに加え、三か国程度の比較的小規模な協力枠組み(ミニラテラル)を発展させることで、インド太平洋地域の各国海上保安機関との連携・協力をより一層強化しています。 海上保安庁では、日米韓、日米比、日米豪印といったミニラテラルの協力枠組みを通じて、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、海上保安分野における連携・協力の取組を進めています。 日米韓海上保安機関の連携
令和5年8月、米国で開催された日米韓首脳会合における共同声明「キャンプデービッドの精神」では、日米韓がASEAN及び太平洋島嶼国地域の平和と安定を守る様々な行動を起こしていくことで一致し、海上保安や海上法執行に関する能力向上支援を行うことで合意しました。この「キャンプデービッドの精神」に基づき、日米韓海上保安機関は、三機関間で更なる協力を行っていくため、令和6年5月、サンフランシスコ(米国)において、連携に係る意向確認書(Letter of Intent)に署名し、日米韓海上保安機関において合同訓練やASEAN及び太平洋島しょ国への能力向上支援等の活動を促進することで認識の共有を図りました。 ![]() Letter of Intent署名式(令和6年5月) 令和6年6月、本枠組みに係る最初の実践的取組として、京都府丹後半島沖において、史上初となる日米韓合同SAR訓練を実施しました。 訓練には、米国沿岸警備隊巡視船「WAESCHE(ウェイシー)」、韓国海洋警察庁警備艦「太平洋16」、海上保安庁から巡視船「わかさ」及び美保航空基地所属のヘリコプター等が参加し、今後の能力向上支援に繋げるための相互理解の促進、捜索救助に関する知識・技能の共有を図りました。 ![]() 日米韓巡視船船長集合写真 ![]() 日米韓SAR訓練の様子 ![]() 訓練を行う「わかさ」乗組員 また、令和6年11月、韓国海洋警察庁が主催するASEAN等の海上保安機関等職員に対する能力向上支援研修に海上保安庁MCT(Mobile Cooperation Team)等を派遣し、制圧技術の能力向上支援等を行いました。海上保安庁では、引き続き本枠組みの実践的取組を進めていきます。 ![]() 日米韓合同での能力向上支援 日米比海上保安機関の連携
令和6年4月の日米比首脳会合において、共同ビジョンステートメントが発表されました。その中で、日米比3か国の海上保安機関は、相互運用性を向上し、海洋安全及び保安を推進するため、インド太平洋において様々な海上活動を実施することが記載されています。 このステートメントに基づき、令和6年6月に初めての日米比3か国の海上保安機関長官級会合を実施し、インド太平洋地域全体の安定・安全を確保していくため、日米比海上保安機関における更なる活動の具体化について確認しました。また、令和6年7月から8月にかけて、初めて米国沿岸警備隊(USCG)の巡視船に海上保安庁職員とフィリピン沿岸警備隊(PCG)職員が乗り、様々な交流プログラムを実施しました。 航海中には、防火・防水訓練や搭載艇を使用した訓練、航空機離発着訓練など様々な訓練を見学・参加したほか、入港後の下船式では、USCG巡視船船長から乗船者一人ひとりに対し、労いの言葉が贈られるなど、各機関の連携・協力体制の強化・相互理解を深めることができました。 ![]() 日米比首脳会合 ![]() 日米比海上保安機関長官級会合 ![]() USCG巡視船に乗船した日米比海上保安機関職員 ![]() 訓練時の写真 日米豪印
日米豪印(QUAD)は、基本的価値を共有し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の強化にコミットするための枠組みであり、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、海洋安保、サイバー、重要・新興技術などの幅広い分野で実践的な協力を進めてきています。2022年5月の日米豪印首脳会合(東京)において、地域の海洋状況把握(MDA)能力の向上を目指す「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(IPMDA)」の取組を歓迎しました。 海上保安庁は、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)と連携し、インド太平洋地域におけるMDAの能力強化に関する技術支援プログラムの1つであるMDA研修に令和4年から職員を講師として派遣しており、IPMDAの取組に貢献しています。 海上保安庁では、引き続き、我が国が推進する「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、各国海上保安機関との連携強化を更に深化させていきます。 ![]() MDA研修 ![]() 日米豪印首脳会合(2024年9月) 二国間での連携・協力
1 アメリカ
海上保安庁は米国沿岸警備隊(USCG)を模範として設立し、平成22年には「海上保安庁とUSCGとの間の協力覚書」を署名・交換しました。令和4年には、USCGとの間で協力覚書に係る付属文書を署名し、日米海上保安機関の連携をより一層密なものとするとともに、日米間の取組を「サファイア」と呼称することとなりました。この「サファイア」の一環として、日米海上保安機関合同訓練等を実施しています。 令和6年5月には、海上保安能力向上支援の専従部門「海上保安庁MCT(Mobile Cooperation Team)」が、USCGと連携してフィリピン沿岸警備隊等に対し制圧技術等に関する能力向上支援を実施し、6月には第十一管区海上保安本部において、USCG職員との救難分野に関する意見交換及び施設見学を実施しました。 また、令和7年1月には、第三管区海上保安本部横浜海上防災基地において海上保安庁の機動防除隊(NST)と、米国沿岸警備隊における災害対応の専門部隊「ナショナル・ストライク・フォース(NSF)」との意見交換を実施しました。 日米海上保安機関は、今後も連携を深め、両機関の協力関係を発展させていきます。 ![]() 令和4年 付属文書署名式 ![]() 令和6年 日米ハイレベル会合 ![]() USCG職員と第十一管区海上保安本部職員の交流 ![]() 海上保安庁NSTと米国沿岸警備隊NSFの職員交流 2 韓国
海上保安庁と韓国海洋警察庁は、海域を接する両国間における海上の秩序の維持を図り、幅広い分野での相互理解・業務協力を推進するため、平成11年以降、定期的に日韓海上保安当局間長官級協議を開催しています。 令和6年9月には20回目となる長官級協議を東京において実施し、両当局間の連携・協力を図ることで一致しました。また、令和6年6月には第八管区海上保安本部と東海地方海洋警察庁が、12月には第七管区海上保安本部と南海地方海洋警察庁が、双方の船艇・航空機を用いた合同捜索救助訓練を実施しました。 ![]() 第20回日韓長官級協議の様子 ![]() 韓国海洋警察庁長による大阪湾海上交通センター見学 3 ロシア
海上保安庁とロシア連邦保安庁国境警備局は、海上での密輸・密航等の不法活動の取締り等に関する相互協力のため、平成12年に締結した「日本国海上保安庁とロシア連邦国境警備庁(現ロシア連邦保安庁国境警備局)との間の協力の発展の基盤に関する覚書」に基づき、これまでに長官級会合のほか、日露合同訓練等を実施し、実務レベルの必要な分野において協力しています。 4 インド
海上保安庁とインド沿岸警備隊は、平成11年に発生した「アロンドラ・レインボー」号事件を契機に、平成12年以降定期的に長官級会合や連携訓練を実施しています。平成18年には「海上保安庁とインド沿岸警備隊との間の協力に関する覚書」を締結し、連携・協力関係の強化を継続しています。 令和6年1月には、海上保安庁の巡視船がインド・チェンナイに入港し、インド沿岸警備隊との間で連携訓練を実施したほか、日印巡視船同士の相互訪問及び意見交換を行いました。また、6月には、海上保安大学校において、インド沿岸警備隊の潜水士と潜水合同訓練を実施し、潜水訓練の手法や安全管理の知識・技能を共有しました。 インド沿岸警備隊巡視船が6年ぶりに来航
海上保安庁では、地政学上重要な関係国と事案対応時の迅速・的確な連携協力を行うため、覚書、協定に基づく二国間の枠組みを構築し、年次会合や連携訓練を開催しています。 日印二国間では、両国海上保安機関が定期的に長官級会合や連携訓練を実施し、インド太平洋地域における治安の維持と安全の確保に取り組んでいます。令和7年1月には、インド沿岸警備隊長官を東京に招聘し、本庁において「日印海上保安機関長官級会合」を開催しました。また、会合に併せてインド沿岸警備隊の巡視船が6年ぶりに横浜港に寄港したことから、入港期間中、第三管区海上保安本部横浜海上防災基地において、インド沿岸警備隊職員と海上保安庁の機動防除隊等による危険・有害物質(HNS)対応の連携訓練を実施しました。 訓練は、HNS対応の装備を着用し、ガス検知器等を使用するなど、より実践に則した内容とすることで、HNS漏洩事故対応に関する知識・技能の共有を図りました。 ![]() 日印長官級会合 ![]() 日印船隊運動訓練 5 べトナム
海上保安庁とベトナム海上警察(VCG)は、平成27年、海上法執行機関として、安全で開かれ安定した海を維持することが両国の繁栄に寄与するとの価値観を共有し、海上保安分野に係る人材育成、情報の共有と交換の維持などについて協力覚書を締結しました。 令和6年12月には、ベトナムにおいて第11回目となる年次会合を実施し、MCTによる研修をはじめとする今年の協力の振返り及び今後の支援の方向性等について合意しました。 ![]() 日越年次会合(令和6年) 6 インドネシア
海上保安庁とインドネシア海上保安機構(BAKAMLA)は、令和元年、海上安全に係る能力向上、情報共有、定期的な会合の開催等に関し、両機関の連携強化を目的とした協力覚書を締結しました。(令和4年7月更新) 令和6年11月には、BAKAMLAとの間で初の対面形式による年次会合を開催し、今後の支援の方向性について合意しました。 ![]() 日尼年次会合(令和6年) 7 フィリピン
海上保安庁とフィリピン沿岸警備隊(PCG)は、平成29年、海上保安に関する人材育成、情報交換など、協力を行う分野を明確化し、両機関の更なる協力・連携関係の強化を目的とした協力覚書を締結しました。令和5年には、海洋状況把握(MDA)に関する情報共有や多国間での合同訓練を行う際の手続き等を明確化する協力覚書の改定及び付属書への署名を行い、一層連携を深めています。 ![]() 日比バイ会談(令和6年) 8 オーストラリア
海上保安庁と豪内務省国境警備隊(ABF)は、平成30年、海上安全保障分野の協力に関する意図表明文書に署名し、同分野における人材育成や情報共有等に関して連携を強化することに合意しました。令和5年には、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向け、MDAに関する相互の連携・協力を発展させるため、「海洋状況把握(MDA)に関する協力覚書」に署名しています。 ![]() 協力覚書署名式(令和5年) インド太平洋沿岸国への能力向上支援
海上保安庁は、インド太平洋沿岸国の海上保安機関に対する海上保安能力向上支援を図るため、独立行政法人国際協力機構(JICA)や日本財団及び笹川平和財団の枠組みを通じて、制圧、鑑識、捜索救難、潜水技術、油防除、海上交通安全、海図作製分野等に関する専門知識や高度な技術を有する海上保安官や能力向上支援の専従部門である海上保安庁MCTを各国に派遣し支援しているほか、各国の海上保安機関の職員を日本に招へいして研修を実施しています。 1 フィリピンに対する支援
海上保安庁は、フィリピン沿岸警備隊(PCG)に対して、平成10年から海上保安行政全般に関するアドバイザーとして、長期専門家を派遣しています。平成25年からは、海上法執行実務の能力強化支援のためのJICA技術協力プロジェクトを開始し、MCT等を派遣しています。 令和6年度は、計5回MCTをフィリピンに派遣し、我が国ODAでPCGに供与された44m型、97m型巡視船の乗組員等に対する安全運航や法執行、救難等に関する能力向上支援や、日米連携による制圧術の能力向上支援を実施しました。 2 インドネシアに対する支援
海上保安庁は、インドネシア海上保安機構(BAKAMLA)が組織される前の平成12年から平成30年までの18年間、長期専門家を現地に派遣しました。 令和6年2月からBAKAMLA能力開発のためのJICA技術協力プロジェクトを開始し、定期的にMCT等を現地に派遣したことに加え、令和6年6月からは、アドバイザーとしてBAKAMLAに長期専門家を派遣し、支援体制を強化しています。令和6年7月及び令和7年1月にはMCTを現地に派遣し、海難救助事案における対応に関する講義や机上訓練、海上法執行に関する研修や制圧訓練を実施しました。 3 マレーシアに対する支援
海上保安庁は、マレーシア海上法令執行庁(MMEA)が設立される前の平成17年から長期専門家を現地に派遣し、組織体制作りや人材育成のためのJICA技術協力プロジェクトを実施するとともに、平成23年からは実務分野にも重点を置き、組織犯罪等の情報収集・分析・捜査や特殊救難技術に関する研修訓練やセミナー等を実施しています。 令和6年10月及び令和7年1月には、MCT及び海上保安試験研究センター職員を現地に派遣し、鑑識技能に係る講義や実習を実施したほか、令和7年2月には特殊救難隊員、潜水士及びMCTを現地に派遣して、MMEAの潜水指導者及び潜水士に対して技術指導を実施しました。 ![]() 4 ベトナムに対する支援
海上保安庁は、平成27年9月に締結したベトナム海上警察(VCG)との協力覚書に基づき、MCT等を派遣してVCGの能力向上を支援しています。令和2年からは、VCGの能力強化のためのJICA技術協力を開始し、定期的にMCT等を派遣しています。 令和6年9月及び12月にはMCT等を現地に派遣し、VCG巡視船を使い違法薬物事案を想定した立入検査訓練や制圧訓練等を実施しました。また、令和7年2月にはVCG職員を日本へ招へいし、海上保安庁の施設見学や海上保安体制に係る講義を行いました。 5 ジブチに対する支援
海上保安庁は、ジブチ沿岸警備隊(DCG)に対しJICAによる「ジブチ沿岸警備隊能力拡充プロジェクト」の一環として、平成25年から定期的に短期専門家を派遣するなど、海上法執行分野における能力向上を支援しています。 令和6年度は、7月、10月、令和7年1月の計3回MCTを現地に派遣し、海上法執行等に関する能力向上支援を実施しました。また、国際移住機関(IOM)とも連携し、令和7年1月にMCTを現地へ派遣し救助機材の取扱い訓練を実施しました。 6 スリランカに対する支援
海上保安庁は、スリランカ沿岸警備庁(SLCG)に対し平成26年度から機動防除隊等を派遣して、油防除に関する能力向上支援を行っています。令和4年からは、油防除技術の指導者を育成するためのJICA技術協力プロジェクトを開始しています。 このプロジェクトの一環として、令和6年5月にはSLCGの指導者候補者が来日して実施された油防除実習の状況を評価したほか、令和7年2月には、現地にMCT及び機動防除隊等を派遣して、油防除に関する技術指導を実施しました。 ![]() 7 太平洋島嶼国に対する支援
海上保安庁は、パラオ共和国海上警備・魚類野生生物保護部(DMSFWP)に対して平成30年から海上保安アドバイザーを派遣しています。平成31年からは、MCTを定期的に派遣するなどして、日本財団から同国に供与されたパトロール艇を活用した研修等を実施しています。 令和6年5月にはマーシャル諸島共和国へMCTを派遣し、海上自衛隊と連携して海面漂流者の救助訓練を実施したほか、船舶の点検に関する安全運航研修を実施しました。 令和6年11月には、日本財団及び笹川平和財団の支援のもと、MCTをパラオに派遣し、DMSFWP職員に対する海面漂流者救助や国際法に関する研修、立入検査訓練を実施しました。 また、令和7年2月にはミクロネシア連邦へMCTを派遣し、海難救助に関する研修を実施しました。 ![]() MCTフィリピン派遣奮闘記
〜ギュッと、グッと、グルっと初派遣〜 私は令和6年4月にMCTに仲間入りし、外国の海上保安機関の能力向上支援業務を担当しています。着任直後の5月、米国沿岸警備隊(USCG)と連携し、フィリピン沿岸警備隊(PCG)に対する立入検査能力向上の支援としてフィリピンのセブに派遣されました。 この派遣ではUSCGの招聘によりPCGだけでなく、タイ海上警察(RTMP)とマレーシア海上法令執行庁(MMEA)もインストラクターとして参加し、初めて5か国が集う多国籍な研修となりました。 5か国のインストラクターがそれぞれ自国の法令や捜査手法について講義を行う中、私は制圧技能の指導を担当しました。 私は制圧指導官として、数十人規模の海保職員に対し訓練を行った経験はありますが、海外職員を相手に訓練を行うことはこれが初めてでした。「時間管理をしながら、実技を交えて伝える」という基本的なことが想像以上に難しく、特に困ったのは私が無意識に使用した「ギュッと(密着させる)」「グッと(締める)」「グルっと(旋回させる)」といった擬音語は、通訳さんを困惑させる場面もあり、申し訳ない気持ちになりました(関西出身者あるあるですかね…!)。 MCTの先輩方からツッコミとフォローをもらい、日本語の表現の豊かさと有用さを実感する反面、正確で客観性を持った説明が重要であり、「感覚的な表現に頼りすぎない日本語表現」の必要性を学びました。 訓練は各国インストラクターも積極的に参加し、また休憩中には質問攻めにあうなど、海上保安庁の技術に対する彼らの熱心さに驚きと嬉しさを感じつつ、私自身も新しい視点から自国の技術を見直す良い機会になりました。 そして印象的な出来事が、ちょっとした言語交流です。英語で進む研修の中で、時々タガログ語(フィリピン公用語)やマレー語(マレーシア公用語)等、各国が相手国の言葉を使用する場面があり、先輩もタガログ語を使用したアイスブレイクをしていました。それを見た私も思い切って研修の最後で「マガンダ!(素晴らしいです)」と挨拶。唐突な発音の怪しいタガログ語に一瞬理解するまでの時間差がありましたが、PCG職員は拍手と嬉しそうなリアクションを見せてくれました。 相手国の言葉を使用することは、単に言葉の壁を越えるだけでなく、相手に対する敬意や理解を示すことができます。海外派遣において、支援国の能力向上支援業務を全うすることはもちろんですが、良好な関係性を築くことも大切であり、今回の経験を通して国際業務の一端を少しだけ理解できた気がしました。私のMCT派遣業務は始まったばかりですが、多くの国に関わり、支援していきたいです。 ![]() 制圧訓練の様子 ![]() 各国インストラクター集合写真 専門分野での支援
1 海上保安政策プログラム
海上保安庁は、アジア諸国の海上保安機関の相互理解の醸成と交流の促進により、海洋の安全確保に向けた各国の連携協力、認識共有を図るため、平成27年から海上保安政策に関する修士課程の教育を行う「海上保安政策プログラム」(MSP:Maritime Safety and Security Policy Program)を開講し、アジア諸国等の海上保安機関職員を受け入れて能力向上支援を行っています。 このプログラムでは、その教育を通じ、@高度の実務的・応用的知識、A国際法・国際関係についての知識・事例研究、B分析・提案能力、C国際コミュニケーション能力を有する人材を育成することを目指しています。 本プログラム卒業生には、海上保安分野の国際ネットワーク確立のための主導的役割を発揮することが期待され、現在、第10期生(バングラデシュ、インドネシア、モルディブ、パラオ、フィリピン、スリランカ、インド、日本)が、高い知識の習得と共有認識の形成に向け日々研鑽を続けています。なお、本プログラムは、海上保安大学校、政策研究大学院大学、独立行政法人国際協力機構(JICA)及び日本財団が連携・協働して実施しています。 2 海上交通分野の支援
海上保安庁は、開発途上国の海上交通安全を図るため、主にアジア・大洋州の国々を対象に、平成15年からシンガポールにおいてJICA第三国研修を実施しています。この研修は日本とシンガポールとの政府間協定に基づき、海上交通に関する世界的な基準や日本とシンガポールでの取組などを対象国の政府機関等の職員に共有するものです。海上保安庁は、毎年同研修に講師を派遣しており、令和6年度までに、延べ33か国の422名に対し研修を実施しました。 また、VTS(船舶通航サービス)管制官育成のため、平成29年からマレーシア(ポートクラン)のマレーシア運輸省海事局海事訓練センター(MATRAIN)における研修を支援しており、これまで日・ASEAN統合基金を活用して、研修員110名が国際基準に合致したVTS管制官に認定されています。令和6年度からは、JICA課題別研修「海上交通安全(国際認定VTS管制官コース)」として、オンライン、マレーシア、本邦での研修を実施しています。 ![]() JICA第三国研修の様子 3 海図作製分野の支援
海上保安庁は、開発途上国の海図作製能力を向上させ、国際航海の安全に貢献するため、主にアジアやアフリカなどの国々を対象に、昭和46年からJICA課題別研修「水路測量コース」(現:海図作製技術コース)を実施しています。 この研修では、水路測量業務に従事する水路技術者を我が国に受け入れ、これまでに46か国約470名が参加し、各国の水路業務分野で活躍する人材を輩出してきました。令和6年度は、カンボジア、インドネシア、マダガスカル、モザンビーク、フィリピン、ベトナム、シンガポールから9名の参加がありました。 本研修は、JICAが実施する本邦研修のうち、国際資格が取得できる唯一の研修です。本研修を修了した研修員には、水路測量国際B級資格*が付与され、修了者の多くが各国水路当局の幹部として活躍しています。 *各国の教育機関が実施する水路測量技術者養成コースに対し、水路測量等の国際基準を定める国際委員会(IBSC)により認定される資格で、国際A級、B級の2つに分かれる。 ![]() 測量船「海洋」での乗船実習 4 海上犯罪取締り分野の支援
海上保安庁は、海賊対策をはじめ開発途上国の海上犯罪取締り能力を強化するため、主にソマリア沖・アデン湾沿岸国や東南アジア諸国を対象に、平成13年からJICA課題別研修「海上犯罪取締りコース」を実施しています。 この研修は、「海賊対策国際会議」(平成12年4月・東京)の中で合意された「アジア海賊対策チャレンジ2000」に基づき行われているもので、これまでに40か国1地域418名を我が国に受け入れています。平成20年度以降は、ソマリア周辺海域における海賊対策強化の必要性から、アジア諸国のほか中東、東アフリカ諸国の海上保安機関職員を招へいしています。 令和6年は、アジア・アフリカ等の海上保安機関の現場指揮官クラスを招へいし、国際犯罪の取締りに関する講義などを行いました。 ![]() 海上保安試験研究センターでの採水実習 国際機関との協調
海に関して、関係各国が連携・協調しつつ、各国が有する知識・技能を世界共通のものとしていくため、様々な分野の国際機関が存在します。海上保安庁では、幅広い海上保安業務で得られた様々な知識・技能を活かし、国際社会に貢献するため、これらの国際機関の取組に積極的に参画しています。 1 国際海事機関(IMO)での取組
IMOは、船舶の安全や船舶からの海洋汚染の防止等の海事問題に関する国際協力を促進するために設立された国連の専門機関で、現在176の国・地域が正式加盟、3地域が準加盟となっています。 海上保安庁では、航行の安全及び船舶からの汚染の防止・規制等の観点からIMOに参画しており、令和6年にはIMOの委員会である海上安全委員会(MSC)をはじめとする様々な会議に出席し、国際議論に貢献しました。 2 国際水路機関(IHO)での取組
IHOは、より安全で効率的な航海を実現するため、海図などの水路図誌に係る国際基準の策定や水路測量技術の向上、各国水路当局の協力などを目的として昭和45年に設立された国際機関で、現在101か国・地域が加盟しています。 海上保安庁では、海洋情報部長がIHO理事会副議長を務めており、令和6年10月にモナコで開催された第8回IHO理事会では、次期IHO戦略計画や次世代電子海図の新規格であるS-100の導入について議論に貢献しました。また、令和6年5月には、水路業務に関する技術的事項等を議論する水路業務・基準委員会(HSSC)の会議を初めて日本で開催し、IHOの会議運営にも貢献しています。 また、IHOは、地域的な連携の促進や課題の解決のため、世界の各地域に地域水路委員会を設置しています。海上保安庁は東アジア水路委員会(EAHC)に昭和46年設立当時から加盟し、常設事務局として50年以上にわたり水路測量や海図作製に係る技術向上や航海安全に取り組んでいます。令和6年9月には、EAHC常設事務局としてカンボジアを訪問し、同国の公共事業運輸省とシハヌークビル港湾公社に対して水路測量や海図管理の重要性を説明するとともに、同国の水路技術の現状について意見交換を行いました。 このほかにも、IHOとユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)は、世界の海底地形名を標準化する「海底地形名小委員会」を共同で設置しています。海上保安庁では、海洋情報部技術・国際課海洋研究室長が同委員会議長を務めており、令和6年には日本提案の海底地形名10件が承認されました。 ![]() 第8回IHO理事会で副議長を務める藤田雅之海洋情報部長 ![]() カンボジア技術訪問 日本提案の海底地形名が国際会議で承認
海底は直接目には見えませんが、陸上と同じように山(海山)や谷(海底谷)、盆地(海盆)等の様々な地形があります。世界では18世紀頃から本格的な海図作製が始まり、海洋調査が進むとともに徐々に海底の地形が明らかになってきました。 そこで、世界中をカバーする海底地形図を作成しようという機運が高まり、国際プロジェクト「大洋水深総図(GEBCO:General Bathymetric Charts of the Oceans)」が、モナコ公アルベール1世のもとで始まり、1904年に第1版が完成しました。GEBCOは現在、国際水路機関(IHO)とユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)が共同で運営しています。 多くの海底地形が見つけられるようになると、同じ海底地形を別々の名称で呼んだり、別々の海底地形を同じような名称で呼んだりすることにより、混乱が生じることから、海底地形の命名はガイドラインに従って行い、広く普及を図っていく必要があります。そこで、GEBCOでは国際的に海底地形名を標準化する学術委員会として、「海底地形名小委員会(SCUFN:Sub-Committee on Undersea Feature Names)」を設置しています。SCUFNはIHO、IOCから選出された12名の専門家で構成されており、海底地形名称付与のガイドラインに基づき、沿岸国の領海外の海底地形について、個人や機関等から提案された名称の審査・承認を行うことで、海底地形名の国際標準化を図っています。SCUFNにおいて審査・承認された海底地形名は、「IHO/IOC海底地形名集」(https://www.gebco.net/data_and_products/undersea_feature_names/)に登録され、公開されることで、国際的に認められることになります。 海上保安庁は、学識経験者(海底地形の名称に関する専門家)及び関係機関を交えた検討会での海底地形名の命名やSCUFNへの提案を行っています。 現在、「IHO/IOC海底地形名集」には、約5000の海底地形名が登録されていますが、そのうち600以上は、日本が提案して承認されたものです。また、令和5年には小原泰彦海上保安庁海洋情報部技術・国際課海洋研究室長が議長に選出されました。このように、日本は世界有数の海底地形名承認国としてGEBCOの取組に貢献しています。 令和6年6月、第37回SCUFN会議(SCUFN37)が済州島(韓国)において開催されました。各国から提案された海底地形名約140件が審査され、うち約110件が承認されたほか、海底地形名審査に係る技術的な検討や関連機関からの活動報告が行われました。日本が提案した10件(伊豆・小笠原弧中部)も審査され、全て承認されました。 今回日本が提案した海底地形は、その付近に江戸時代の元号に因んで命名された海山が多数存在することから、同様に江戸時代の元号に由来する海底地形名を付与しています。また、仲海山は、有人潜水調査船「しんかい2000」を用いて伊豆・小笠原海域の海底火山調査を最初期から取り組んだ研究者で、沖縄トラフやハワイ周辺など、様々な海域における潜航調査を行った故 仲二郎氏に因んで命名されました。 これらの海底地形名は、「IHO/IOC海底地形名集」に掲載されることで世界中に周知され、今後、地図・海図や論文に使われることになります。海上保安庁では、引き続き海洋調査によって判明した海底地形に適切に名称を付与し、SCUFNへの登録を通して国際的な普及に努めていきます。 ![]() 第37回SCUFN会議の様子 ![]() 令和6年に承認された海底地形名(10件) 3 国際航路標識機関(IALA)での取組
IALAは、航路標識の改善、船舶交通の安全等を図ることを目的に、昭和32年に国際的な非営利団体である国際航路標識協会として設立されました。令和6年8月の国際航路標識機関条約の発効により国際機関へと移行し、令和7年2月現在38か国が加盟しています。日本は昭和34年に加入、昭和50年からは理事を務めており、令和7年に開催された国際機関化後初となる第1回総会の選挙においても25の理事国の内の一つに選出されました。 国際機関化後の第1回理事会では、IALAの常設技術委員会の一つであるデジタル技術(DTEC)委員会(令和5年にENAV委員会から改称)議長に交通部企画課国際・技術開発室専門官が任命されました。これは航行援助分野における国際活動に対する海上保安庁の取組及び同委員会議長としてのこれまでの実績が評価されたものです。 国際航路標識機関条約の発効
〜世界の航路標識の発展のために〜 令和6年5月24日、国際航路標識機関条約の批准国が30か国に到達しました。その後同条約で定められた日数である90日を経た8月22日に同条約が発効し、国際航路標識機関(IALA)が誕生しました。 IALAは、船舶が自船の位置を確認し、航行上の危険となる障害物を把握し、安全な進路を導くための指標となる、灯台やブイなどの航路標識に関する国際的基準の策定や技術的な助言等を行うため、昭和32年、フランス国内法上の非営利団体である国際航路標識協会(IALA)として設立されました。国際機関への移行は、組織体制の強化等を通じて、航路標識に関する国際協力をより一層強化することを目的としたものです。IALAは令和2年に国際航路標識機関条約案を採択し、我が国は令和3年にこれを締結しました。IALAが国際機関へ移行することによって、その機関で作成された国際的基準等は、加盟国政府が認めたものとなり、国際的基準としてより一層実効性が高まることが期待されます。 海上保安庁は、昭和34年に国家会員としてIALAに加盟して以降、IALAにおいて主導的な役割を担っており、昭和50年に初めて理事に選出されてからは、令和6年の国際機関化まで12期連続で理事を務めるなど、各国からその活動を高く評価されています。 活動の一例をあげると、海上に設置される航路標識の意味・様式等の統一は19世紀からの課題であった中、昭和55年に東京で開催したIALA会合において、これら航路標識の意味・様式等を統一する国際的基準である「IALA海上浮標式」をとりまとめるなど、その策定に大きく貢献しました。近年では、平成28年から常設委員会のひとつである、次世代の電子航行システムを検討する委員会の議長を交通部職員が務めているほか、海上におけるデータ通信の方法として開発が進む、これまでの船舶間の通信に加えて衛星通信なども取り入れた新たな海上デジタル通信方式の技術開発を率先して進め、関連するワークショップを主催する等航路標識分野における国際的なルール作りにおいて主導的な役割を担っています。さらに、令和5年11月には、東京において、国際航路標識機関条約に基づく機関の運営に関するルール案を作成する会合を海上保安庁主催のもと開催しました。 そして、令和7年2月、国際機関化後初となる第1回総会がシンガポールで開催され、我が国は選挙により25の理事国のうちの一つに選出されました。この総会で一般規則等が承認されたことにより、国際機関としての活動が本格的に始まりました。 海上保安庁は、国際機関へ移行後も引き続き、航路標識分野における同機関での活動に加盟国等と協調して積極的に貢献するとともに、国際的なルールづくり等に率先して取り組んでいきます。 ![]() 総会の様子 ![]() 理事国選出国 4 国連薬物・犯罪事務所(UNODC)との連携
UNODC(United Nations Office on Drugs and Crime)は、薬物、犯罪、国際テロの問題に対処することを目的に、平成9年に設立された国連の機関です。UNODCの取組のうち、海上犯罪対策に特化したものがグローバル海上犯罪プログラム(GMCP)です。GMCPは、インド太平洋地域等において、海洋状況把握(MDA)能力強化に関する技術支援等を提供しています。これは、我が国が掲げる「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現にも資するものです。 海上保安庁は、GMCPが提供する技術支援の1つであるMDA研修に、令和4年から職員を講師として派遣しています。 令和6年度はタイ、パラオの海上法執行機関に対して海上保安庁のMDAに関する取組事例を交えた研修を実施しました。また、5月にはマレーシアにて東南アジア各国の海上保安機関と宇宙機関対象のMDAに係るワークショップが開催され、海上保安庁とJAXAのMDAに関する取組について説明しました。 令和7年2月には海上保安庁航空機をマレーシアに派遣し、マレーシア、フィリピン、インドネシアの海上保安機関職員に対して、研修フライトを含むMDA研修を実施しました。 ![]() MDAワークショップの様子 ![]() MDA研修フライト 国連機関主催の海洋汚染対策ワークショップで分析方法を紹介
海上保安試験研究センターは、海上保安業務で使用する機器の試験研究や海上犯罪の捜査のための鑑定分析のほかにも様々な取組を行っています。その一つが国際協力です。 UNODCの取組の一つであるグローバル海上犯罪プログラム(GMPC)では、国境を超える海上犯罪への対処だけでなく、国際的な海洋汚染があった場合の司法手続きに関する法的支援や訓練にも着手しています。2020年7月にモーリシャス沖で発生した貨物船座礁事故や2021年5月にスリランカ沖で発生したコンテナ船の火災・沈没事故により深刻な海洋汚染が発生したことは記憶に新しいところです。 2024年、海上保安庁はスリランカ及びマダガスカルの現地UNODC事務所が主催する「海洋汚染対策ワークショップ」に海上保安試験研究センターの試験研究官を派遣し、海上に流れた油等の鑑定・分析方法について講義を行いました。 四方を海に囲まれた我が国にとって、世界中の沿岸国や国際機関との連携・協力を図ることはたいへん重要です。 地球規模での海洋環境保全が喫緊の課題である中、海洋汚染対策を司法の面から推進するUNODCの取組に参画し、これまで海上保安試験研究センターが培ってきたノウハウを共有することで沿岸国の対処能力の向上に資することができます。海上保安庁では、引き続き、国際連携・協力を推進していきます。 ![]() 5 アジア海賊対策地域協力協定・情報共有センター(ReCAAP−ISC)での取組
アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)とは、我が国の主導で締結されたアジアの海賊・海上武装強盗問題に有効に対処するための地域協力を促進するための協定であり、平成16年11月に採択、平成18年9月に発効されました。(2024年現在の協定締約国:21か国) この協定に基づき、情報共有、協力体制構築のため、平成18年11月、シンガポールに情報共有センター(ISC)が設立されました。設立以来、海上保安庁は、このISCへ職員1名を派遣し、海賊情報の収集・分析・共有及び法執行能力向上支援を積極的に推進しています。 令和6年10月には、締約国の海賊対策担当組織幹部等が出席する会議「Capacity Building Executive Programme(CBEP)」(東京で開催)をReCAAP-ISC・外務省とともに開催するなど、アジア地域における海賊対策に係る各種取組を推進しています。 ![]() CBEPの様子 海上保安庁の海賊対策
東南アジア周辺海域等への巡視船派遣 ●東南アジア周辺海域における海賊等の発生状況 東南アジア周辺海域では、平成10年代前半には海賊等の発生件数が150件以上となっており、特に海上交通の要衝であるマラッカ・シンガポール海峡においては、平成11年の「アロンドラ・レインボー」号事件や平成17年の「韋駄天」号事件をはじめ、日本関係船舶を含む多くの船舶が海賊等の被害に遭いました。日本関係船舶を含む多数の船舶が航行するマラッカ・シンガポール海峡及び東南アジア周辺海域の安全確保と治安維持は、輸出入の多くを海上輸送に頼る我が国にとって極めて重要です。 ●巡視船を東南アジア周辺海域等へ派遣 ―これまでに派遣50回― 平成12年4月、東京で開催された「海賊対策国際会議」において「アジア海賊対策チャレンジ2000」が採択されました。その会議において、海上保安庁が各国海上警備機関に提案し合意された事項の一つに、「巡視船の相互訪問及び連携訓練の実施」があります。それを具現化するため、海上保安庁は、平成12年11月に初めてインドとマレーシアへ巡視船を派遣しました。 第1回目の派遣以降、現在に至るまで東南アジア周辺諸国等に巡視船を派遣しており、令和7年1月には、通算50回目の派遣船となる巡視船「せっつ」をインドネシアに派遣しました。 派遣された巡視船は、公海上のしょう戒のほか、訪問国の海上保安機関との意見交換や連携訓練を実施しています。また、派遣中に国土交通省海事局とともに、海賊対策のための官民連携訓練も実施しています。 ![]() 海外における巡視船の入港歓迎 ![]() 官民連携訓練 ![]() 「巡視船せっつ」出港式(派遣50回目) ソマリア周辺海域への捜査隊の派遣 ●ソマリア周辺海域における海賊等の発生状況 平成20年頃に急増したソマリア沖・アデン湾及びその周辺の海賊等の発生件数は、平成23年には237件となり、全世界の発生件数の半数以上を占めるに至り、船舶航行の安全に対する脅威として大きな国際的関心を集めました。 ●海上保安官をソマリア周辺海域へ派遣 ―これまでに派遣50回― 平成21年3月、ソマリア周辺海域で海賊による商船への襲撃が頻発していることを受け、海上警備行動が発令され、護衛艦がソマリア沖・アデン湾へ派遣されました。派遣された護衛艦には、海賊行為があった場合の逮捕・取り調べといった司法警察活動を行うため、海上保安官8名がソマリア周辺海域派遣捜査隊として同乗しました。令和7年2月には、通算50回目となるソマリア周辺海域派遣捜査隊が長崎の佐世保から出港した護衛艦に同乗しました。護衛艦に同乗した海上保安官は、自衛官とともに海賊行為の監視、情報収集等に従事しています。 なお、平成21年7月の「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」(以下、「海賊対処法」という。)施行後は、同法に基づき護衛艦が派遣されています。 ●海賊対処法に基づき逮捕した海賊4名を日本へ移送〜送致 平成23年3月5日、日本関係船舶であるオイルタンカー「グアナバラ」号がアラビア海(オマーン沖)の公海上を航行中に4名のソマリア人海賊に襲撃される事案が発生しました。海賊4名は米軍に拘束され、「グアナバラ」号乗組員は船内の退避区画(シタデル)に避難していたため全員無事でした。 この事件では、政府方針に従い、護衛艦に同乗している海上保安官8名が、米軍から海賊4名を引き取り、護衛艦上で逮捕しました。その後、海上保安庁の航空機によりこれら海賊4名を日本まで護送し、3月13日に、東京海上保安部が東京地方検察庁に送致しました。本件は、平成21年7月の海賊対処法の施行以来、同法違反で逮捕した初めての事件となりました。 海上保安庁では、海賊行為があった場合の司法警察活動に備え、定期的に、ジブチ沿岸警備隊との合同訓練や航空機の派遣による逮捕した被疑者の護送訓練を実施しています。 ![]() 海賊に襲撃された「グアナバラ」号 ![]() 海賊護送訓練 ●海賊対処法の成立 平成21年6月、海賊対処法が国会で成立し、海賊や海賊船等の国籍がどの国であっても、全ての海賊行為を我が国の犯罪として処罰するなど、海賊行為に適切に対処できるようになりました。 ●海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法の成立 平成25年11月には「海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法」が国会で成立し、海賊行為が多発している海域を航行する船舶に小銃を所持した民間武装警備員が乗船できるようになりました。 まとめ 海上保安庁では、平成12年から東南アジア周辺海域等に巡視船を派遣、平成21年からソマリア沖・アデン湾に海賊対処活動として派遣される海上自衛隊の護衛艦に司法警察活動に備えて海上保安官を派遣しており、令和7年ともに50回目という大きな節目を迎えました。海賊対策を開始して以降、新たに設立された各国海上保安機関等との連携により、海賊の発生件数がピーク時と比べて減少するなど、船舶交通の安全確保に貢献してきました。 今後も引き続き、関係国・関係機関と連携しつつ、東南アジア周辺海域及びソマリア沖・アデン湾における海賊対策を的確に実施していきます。 |