犯罪は国際犯罪組織が関与するものも発生し、事故・災害は大規模化する傾向にある中、一つの国が管轄権を行使できる海域には制約があります。
海に関する問題は、一つの国で解決することが困難なものが多く、海でつながる諸外国と連携・協力して対処することが極めて重要です。海上保安庁では、諸外国との合同訓練や共同パトロール等を通じ、これら海上保安機関間の協力関係を実質的な活動に発展させるよう主導し、様々な分野で連携・協力を図っています。
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8 海をつなぐ
CHAPTER I. 各国海上保安機関との連携・協力
犯罪は国際犯罪組織が関与するものも発生し、事故・災害は大規模化する傾向にある中、一つの国が管轄権を行使できる海域には制約があります。 海に関する問題は、一つの国で解決することが困難なものが多く、海でつながる諸外国と連携・協力して対処することが極めて重要です。海上保安庁では、諸外国との合同訓練や共同パトロール等を通じ、これら海上保安機関間の協力関係を実質的な活動に発展させるよう主導し、様々な分野で連携・協力を図っています。 1 世界海上保安機関長官級会合(CGGS:Coast Guard Global Summit)
近年、地球規模の自然環境や社会環境の変化により、海洋においても、大規模な自然災害による被害や、薬物犯罪等国境を越える犯罪の脅威が拡大しています。このような地球規模の課題が拡がる中、平和で豊かな海を次世代に継承していくためには、平和と治安の安定機能としての役割を担う海上保安機関が世界的に連携し協力することが強く求められるようになりました。 海上保安庁では、法の支配に基づく海洋秩序の維持等の基本的な価値観を共有し、世界の海上保安機関が力を結集してこれらの課題に取り組むため、平成29年から世界各国の海上保安機関等のトップが一堂に会する「世界海上保安機関長官級会合」を日本財団と共催しています。 令和元年に東京において開催された「第2回世界海上保安機関長官級会合」では、84の海上保安機関等が、“the first responders and front-line actors”(海上で「最初に」「最前線で」活動する機関)として共通する行動理念の理解を深めました。 令和5年10月には、過去最大となる96の海上保安機関等のトップ等が出席する「第3回世界海上保安機関長官級会合」を開催しました。会合では、会合運営ガイドラインの改正、海上保安機関間の情報共有のための専用ウェブサイトの運用開始、人材育成オンラインプログラムの継続実施等について合意し、この枠組みを世界の海上保安機関間の連携・協力のプラットフォームとして引き続き有効に機能させていく必要性を確認しました。また、“the first responders and front-line actors”たる海上保安機関等が直面する課題を克服し、“Peaceful, Beautiful, and Bountiful Seas”(平和で美しく豊かな海)を次世代に受け継ぐために、海上部門における共通の行動理念への理解を深め、全世界の海上保安機関の能力を向上させることが重要であることを再認識しました。 令和5年 第3回世界海上保安機関長官級会合 会合風景 議長を務める海上保安庁長官 2 北太平洋海上保安フォーラム(NPCGF)
北太平洋海上保安フォーラムは、北太平洋地域の6か国(日本、カナダ、中国、韓国、ロシア、米国)の海上保安機関の代表が一堂に会し、北太平洋の海上の安全・セキュリティの確保、海洋環境の保全等を目的とした各国間の連携・協力について協議する多国間の枠組みであり、海上保安庁の提唱により、平成12年から開催されています。 このフォーラムの枠組みの下、参加6か国の海上保安機関は、北太平洋の公海における違法操業の取締りを目的とした漁業監視共同パトロールや、現場レベルでの連携をより実践的なものとするための多国間多目的訓練(MMEX)等を行っています。また、今後の連携・協力の方向性やこれまでの活動の成果について議論するため、例年、長官級会合(サミット)と、実務者による専門家会合を開催しています。 令和5年9月には、長官級会合がカナダ・バンクーバーにおいて開催され、参加国が連携して実施する取組及び今後の活動の方向性について議論が行われたほか、海上での犯罪取締り等に関する情報交換も行われ、北太平洋の治安の維持と安全の確保における多国間での連携・協力の推進が確認されました。 令和5年北太平洋海上保安フォーラムサミットの様子 合同訓練の様子 3 アジア海上保安機関長官級会合(HACGAM)
アジア海上保安機関長官級会合は、海上保安機関の長官級が一堂に会して、アジアでの海上保安業務に関する地域的な連携強化を図ることを目的とした多国間の枠組みであり、海上保安庁の提唱により、平成16年から開催されています。 22か国1地域2機関がメンバー国であり、令和5年9月に長官級会合がトルコで開催され、17か国・1地域・2機関が参加し、メンバー間の連携を維持・発展させることについて合意がなされました。また令和3年12月から、情報共有のプラットフォームとなるHACGAMウェブサイトの正式運用が始まりました。海上保安庁は、アジア地域の諸外国海上保安機関と、ウェブサイトも活用しつつ地域的な連携強化に取り組みます。 HACGAM長官級集合写真 トルコ沿岸警備隊長官との意見交換 注目を浴びる海上保安庁の国際業務
我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、法執行を任務とする海上保安機関の重要性は、世界的にますます注目を集めています。法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、様々な取組を行っている海上保安庁は、令和5年度、多くの外国機関と交流を行いました。 米国海軍太平洋艦隊司令官パパロ大将による長官表敬 フランス太平洋管区司令官による海上保安監表敬 フィリピン国家安全保障担当顧問による長官表敬 駐日トルコ共和国大使による長官表敬 米国沿岸警備隊太平洋方面ティアンソン司令官訪日 当庁航空機をシンガポール・インドネシアへ派遣 Jhops(太平洋合同安全保障会議) ミクロネシア司法大臣代行とのバイ会談 日韓長官級協議 キリバス海上警察とのバイ会談 1 アメリカ
海上保安庁は米国沿岸警備隊(USCG)を模範として設立し、平成22年には「海上保安庁とUSCGとの間の覚書」を署名・交換しました。同覚書に基づき、巡視船艇の相互訪問等の職員交流及び情報共有・交換を実施しています。 また令和4年、USCGとの間で協力覚書に係る付属文書を署名し、日米海上保安機関の連携をより一層密なものとするとともに、日米間の取組を「サファイア」と呼称することとなりました。この「サファイア」の一環として、日米海上保安機関合同訓練等を実施しています。また、令和5年4月には、海上保安大学校とUSCGアカデミーとの間で、これまで行ってきた学術と教育訓練に係る交流をさらに拡大して関係を強化し、双方の大学校教育を一層充実させることを目的とする、協力に関する文書を署名しました。 海上保安庁は、世界の海上保安機関の連携協力を主導しており、インド太平洋地域の外国海上保安機関に対して海上犯罪の取締り等に必要な能力向上支援にも取り組んでいます。日米海上保安機関合同訓練を通じて、両機関の海上法執行の手法や手続に関する相互理解を深め、互いの能力を向上させるとともに、この実績を積み重ね、外国海上保安機関への能力向上支援等にも反映させていくこととしています。 令和5年12月には、海上保安庁の機動防除隊(NST)及び特殊救難隊(SRT)がUSCGナショナルストライクフォース(NSF)を訪問し、海上災害対応に関する意見交換を行い、相互理解を深めました。日米の両部隊は、今後も交流を推進し、日米海上保安機関の能力の向上や協力関係を発展させていくこととしています。 令和5年 米国沿岸警備隊との合同訓練(於:サンディエゴ沖) 令和5年 海上保安大学校長とUSCGアカデミー学長が文書に署名 USCG・NSFとの現地交流(於:米国カリフォルニア州) 2 韓国
海上保安庁と韓国海洋警察庁は、海域を接する両国間における海上の秩序の維持を図り、幅広い分野での相互理解・業務協力を推進するため、平成11年以降、定期的に日韓海上保安当局間長官級協議を開催しています。 令和5年12月には19回目となる長官級協議を韓国・仁川において実施し、両当局間の連携・協力を図ることで一致しました。 令和5年6月には第八管区海上保安本部と東海地方海洋警察庁が、10月には第七管区海上保安本部と南海地方海洋警察庁が、双方の船艇・航空機を用いた日韓合同捜索救助訓練を実施しました。 3 ロシア
海上保安庁とロシア連邦保安庁国境警備局は、海上での密輸・密航等の不法活動の取締り等に関する相互協力のため、平成12年に締結した「日本国海上保安庁とロシア連邦国境警備庁(現ロシア連邦保安庁国境警備局)との間の協力の発展の基盤に関する覚書」に基づき、これまでに長官級会合のほか、日露合同訓練等を実施し、実務レベルの必要な分野において協力しています。 4 インド
海上保安庁とインド沿岸警備隊は、平成11年に発生した、「アロンドラ・レインボー」号(日本人船長・機関長が乗船)がマラッカ海峡で海賊に襲われた事件で、インド沿岸警備隊が海軍と連携して海賊を確保したことを契機に、平成12年以降、定期的に、長官級会合や連携訓練を実施しており、平成18年に「海上保安庁とインド沿岸警備隊との間の協力に関する覚書」を締結し、連携・協力関係の強化を継続しています。 令和6年1月には、海上保安庁の巡視船がインド・チェンナイに入港し、インド沿岸警備隊との間で連携訓練、両機関の巡視船同士の相互訪問及び意見交換等を実施しました。 令和4年 日印海上保安機関長官級会談 インド沿岸警備隊巡視船への訪問 5 べトナム
平成27年9月、海上保安庁とベトナム海上警察(VCG)は、海上法執行機関として、安全で開かれ安定した海を維持することが両国の繁栄に寄与するとの価値観を共有し、海上保安分野に係る人材育成、情報の共有と交換の維持などについて協力覚書を締結しました。 令和5年10月2日〜6日の間、日越外交関係樹立50周年の記念行事の一つとして、VCGの巡視船が、初めて神戸港に入港し、海上保安庁職員による救難手法の訓練展示(ワークショップ)、海上保安庁の施設見学や日越海難救助合同訓練等を実施しました。 また、令和5年12月にはベトナム海上警察副司令官が来日し対面での年次会合を実施、今年度の協力のふりかえり及び来年度以降の協力等について協議を行いました。 ベトナム海上警察副司令官来日 日越海難救助合同訓練 6 インドネシア
令和元年6月、海上保安庁とインドネシア海上保安機構(BAKAMLA)は、海上安全に係る能力向上、情報共有、定期的な会合の開催等に関し、両機関の連携強化を目的とした協力覚書を締結しました。(令和4年7月更新) 令和5年11月には、BAKAMLAとの間でオンライン形式による年次会合を開催し、今後の支援の方向性について合意しました。また、世界海上保安機関長官級会合のため来日したイルファンシャ長官とバイ会談を実施し、更なる連携・協力の深化を確認しました。 令和5年 日尼年次会合(オンライン) インドネシア海上保安機構(BAKAMLA)長官とのバイ会談 7 フィリピン
平成29年1月、海上保安庁とフィリピン沿岸警備隊(PCG)は、海上保安に関する人材育成、情報交換など、協力を行う分野を明確化し、両機関の更なる協力・連携関係の強化を目的とした協力覚書を締結しました。 令和5年6月には、PCG、米国沿岸警備隊(USCG)と初となる三機関合同訓練及び実務者会合を実施しました。また、同年12月には、海洋状況把握(MDA)に関する情報共有や多国間での合同訓練を行う際の手続き等を明確化する協力覚書の改定及び付属書への署名を行いました。 令和5年 日米比合同訓練 令和5年 日比長官級会合 日比協力覚書交換式 8 オーストラリア
海上保安庁と豪内務省国境警備隊(ABF)は、2018年に海上安全保障分野の協力に関する意図表明文書に署名し、同分野における人材育成や情報共有等に関して連携を強化することに合意していたところ、令和5年3月に「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向け、MDAに関する相互の連携・協力を発展させるため、「海洋状況把握(MDA)に関する協力覚書」に署名しました。 令和5年度は情報交換開始に向けて、世界海上保安機関長官級会合(CGGS)、アジア海上保安機関長官級会合(HACGAM)等を通じ、更なる連携強化を図ることを確認しました。 日豪協力覚書署名式 我が国は、海外の地域、特に開発途上にある海外の地域において、大規模な災害が発生した場合、被災国政府又は国際機関の要請に応じ、救助や災害復旧等の活動を行う国際緊急援助隊を派遣しており、海上保安庁の職員も国際緊急援助隊の一員として派遣され、多くの災害事案等に対応しているほか、必要な訓練を実施しています。 令和5年 トルコにおける地震災害対応への救助チーム派遣 令和5年 フィリピンにおける油流出災害対応による専門家チーム派遣 海上保安庁は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の維持・強化のため、引き続き、二国間・多国間会合や合同訓練等を通じ、各国海上保安機関との連携・協力を推進していきます。 |