海上保安庁では、海洋権益の確保、海上交通の安全、海洋環境の保全や防災といった様々な目的のために海洋調査を実施しています。特に近年では、我が国の管轄海域や新たな海洋資源の開発・利用等への関心が高まるなか、海洋権益確保の基礎となる海洋調査も重要となっています。
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6 海を知る
CHAPTER I. 海洋調査
海上保安庁では、海洋権益の確保、海上交通の安全、海洋環境の保全や防災といった様々な目的のために海洋調査を実施しています。特に近年では、我が国の管轄海域や新たな海洋資源の開発・利用等への関心が高まるなか、海洋権益確保の基礎となる海洋調査も重要となっています。 1 海洋権益の確保のために
日本周辺海域において、測量船に搭載されたマルチビーム測深機や自律型潜水調査機器(AUV)等による海底地形調査、地殻構造調査や底質調査等の調査を重点的に推進するとともに、自律型海洋観測装置(AOV)や航空レーザー測深機により、領海や排他的経済水域(EEZ)の外縁の根拠となる低潮線の調査を実施しています(詳しくは「海洋権益の確保」)。 2 海上交通の安全のために
船舶の安全な航行を確保するためには、最新の情報が掲載された海図や海の流れ・潮の満ち引きといった海洋情報が必要です。 海上保安庁では、測量船や航空機等により海底地形の調査等を行い、海図を最新の情報に更新するとともに、測量船や海洋短波レーダー、AOV、験潮所等により海潮流や潮位の情報を収集し、インターネットにより情報提供することによって、海上交通の安全に貢献しています。 AOV投入作業の様子 3 様々な目的のために
海洋調査は、海洋権益の確保や海上交通の安全のほか、海洋環境の保全や防災のためにも実施されています。 海上保安庁では、海洋環境を把握するため、海水や海底堆積物を採取し、汚染物質や放射性物質の調査を継続的に行っています(詳しくは「2 海洋環境調査」)。 また、海底地殻変動観測(詳しくは「3 海底地殻変動の観測」)、海域火山の活動監視観測等を実施し、大規模地震発生のメカニズム解明や海域火山の活動状況の把握に役立てています。 その他、様々な目的に用いるため、詳細な海底地形図を作成しています。 さらに、世界の海底地形名を標準化するための国際会議(海底地形名小委員会)に海底地形名を提案しています。 航空機による海域火山観測の様子 噴火から10年、今も活動を続ける「西之島」
西之島拡大に関連するEEZの外縁線をイメージした図 西之島は、東京都の南方約930km、小笠原諸島の西方約130kmに位置しており、昭和48年から49年にかけて噴火し、新島を形成しました。その後長らく活動を停止していましたが、平成25年11月20日に付近海域において突如活動を開始しました。活発に噴火する西之島は、大量の噴煙と溶岩を噴出しながら成長を続け、それまであった島をすべて覆いつくし、平成30年には、噴火前の島の約12倍の大きさになりました。 海上保安庁では航空機で火山活動の監視を続けるとともに、火山活動が一旦穏やかになった平成27年から28年にかけて測量船や航空機により、海図を最新とするための海底地形調査を行いました。平成28年10月には海底地形調査に伴う作業のため、当庁として噴火後初めて西之島に上陸しています。その後、平成29年6月30日にこの調査結果を反映した海図を刊行しましたが、同年4月から再開した噴火により西之島がさらに拡大したことから、平成30年7月に再度航空機による海底地形調査を実施し、令和元年5月に海図を改版しました。海図は領海や排他的経済水域(EEZ)の範囲を示す根拠となるもので、これらの海図の刊行により領海とEEZを合わせた面積が平成25年の噴火以前と比較して約100km2拡大することとなりました。 西之島は、令和元年以降も噴煙や溶岩を噴出する噴火と休止を繰り返し、活動を継続しています。活動開始から約10年となる令和5年10月にも、火山灰を含む噴煙を高度約1,500mまで上げる小規模な噴火を確認しており、海上保安庁では航行警報等により付近航行船舶に対して注意を呼びかけています。 海上保安庁では航行船舶の安全や海洋権益の確保のため、今後も航空機等による定期的な観測を継続し、西之島の火山活動の推移を注視していきます。 西之島南南東約500mの海面から噴火(平成25年11月) 旧島を覆いつくす西之島(平成26年8月) 西之島上陸調査の様子(平成28年10月) 灰色の噴煙を上げる西之島(令和5年10月) 南極地域観測に貢献する海上保安官
南極地域観測は、関係各省庁が連携して研究観測や昭和基地の維持運営などを分担して進めている国家事業です。海上保安庁は、初代南極観測船「宗谷」による最初期の南極地域観測から参加しており、近年は、南極地域における船舶の航行安全の確保、地球科学の基盤情報の収集などを目的とした海底地形調査や潮汐観測を担当し、南極地域観測事業の一翼を担っています。 国際水路機関南極地域水路委員会の取組として、各加盟国が南極地域の海図を分担して刊行しており、日本(海上保安庁)は昭和基地周辺の海図を刊行しています。南極観測船「しらせ」に装備されたマルチビーム音響測深機によって取得した精密な海底地形データにより、南極地域における海図の整備を進めています。潮汐観測は、昭和46年から昭和基地のある東オングル島の西側の小さな湾、西の浦で行っており、現在も常時観測を続けています。潮汐データは、測量や海図の作成に使用されるほか、世界各地の潮汐データと組み合わせることで地球全体の海面の長期的な変動の監視等、地球科学の基礎的な資料としても活用されます。験潮のための建屋は、南極観測ごく初期からの施設でしたが、老朽化や破損が進んだため、令和5年度、新たな建屋を設置しました。 南極地域観測に従事する海上保安官は、南極地域観測隊の夏隊員として、毎年11月に日本を発ち、12月中に昭和基地に到着、観測等の基地での活動を行い、翌年2月頃昭和基地を離れ、春頃日本に帰国します。現在の厳しい状況においても、これまでの南極地域観測隊員が積み重ねてきた活動を未来につなげるため、海上保安庁で培った海洋調査のノウハウを生かし、南極地域観測に貢献しています。 海底地形調査 新設した昭和基地・西の浦験潮所 投下式塩分・水温・深度観測 潮汐観測を実施する様子 対応した職員の声
海洋情報部沿岸調査課 沿岸調査官付 南極地域観測隊の一員として約4か月間、南極観測船「しらせ」乗船中は海底地形調査を、昭和基地では潮汐観測を担当してきました。あっという間に過ぎていく日々の中で、南極の厳しい自然は観測を阻み、何度も頭を悩まされましたが、そんな中見ることのできる美しい景色は心の癒しでした。困難な状況の中で得られた観測データが、今後も活用される貴重なデータの一つとなることはやりがいを感じます。 |