海上保安レポート 2024

はじめに


TOPICS 海上保安の1年


特集 海をかけるひと


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 生命を救う

2 治安の確保

3 領海・EEZを守る

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 海上交通の安全を守る

8 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

5 災害に備える > CHAPTER II. 自然災害対策
5 災害に備える
CHAPTER II. 自然災害対策

近い将来に発生が懸念されている南海トラフ巨大地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震や首都直下地震に加え、近年、激甚化、頻発化し、深刻な被害をもたらす集中豪雨や台風など、自然災害への対策は重要性を増しています。

海上保安庁では、こうした自然災害が発生した場合には、人命・財産を保護するため、海・陸の隔てなく、機動力を活かした災害応急活動を実施するとともに、自然災害に備えた灯台等の航路標識の強靱化や防災情報の整備・提供、医療関係者等の地域の方々や関係機関との連携強化にも努めています。

海上保安庁における自然災害への対応

近年、集中豪雨や台風等による深刻な被害をもたらす自然災害が頻発しています。

海上保安庁では、自然災害が発生した場合には、組織力・機動力を活かして、海・陸の隔てなく、巡視船艇や航空機、特殊救難隊機動救難士機動防除隊等を出動させ、被害状況調査を行うとともに、被災者の救出や行方不明者の捜索を実施しています。

また、地域の被害状況やニーズに応じて、SNS等での情報発信を行いつつ、電気、通信等のライフライン確保のため協定に基づき電力会社等の人員及び資機材を搬送するとともに、地方公共団体からの要請に基づく給水や入浴支援に加え、支援物資の輸送等の被災者支援を実施しています。

令和5年の現況
1 自然災害への対応

令和5年度も地震や台風、大雨等の自然災害が発生し、各地に被害がもたらされました。海上保安庁では、長年の海難救助等で培った経験・技能や巡視船艇・航空機等の機動力を活用し、これらの自然災害に対応しました。また、航行船舶や海域利用者に対する情報提供等を行ったほか、自治体に職員を派遣して最新の被害状況等の情報収集を実施し、各地域のニーズに応じた支援を実施しました。

大雨への対応

令和5年6月末から7月にかけては、九州地方から東北地方にかけて活動の活発な梅雨前線の影響により、全国の広い範囲で大雨となり、また局地的にも線状降水帯が発生するなどして、各地で被害が発生しました。

海上保安庁では巡視船艇・航空機による被害状況の調査や行方不明者の捜索を実施したほか、秋田県男鹿市においては、記録的な大雨の影響による土砂崩れから断水が発生し、県からの要請に基づき巡視船による給水支援を実施しました。

台風への対応

令和5年8月には、相次ぐ台風の接近が全国的に大雨や強風被害をもたらしました。海上保安庁においては、台風の接近、上陸に際し、人命救助を最優先として、巡視船艇・航空機等を配備させ、即応体制を確保しつつ、被害状況の調査を実施するとともに、関係する自治体に職員を派遣し、関係機関と緊密に連携・協力しながら、航空機を用いて傷病者や停電復旧に必要な電力会社作業員・資機材の搬送を実施するなどの対応を行いました。

地震への対応

令和6年1月1日、石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6の地震が発生し、最大震度7を観測するとともに、各地で地震による津波も観測されました。この影響により、多くの家屋の倒壊や孤立集落の発生など、甚大な被害が発生しました。海上保安庁では、発災後直ちに巡視船艇・航空機等を発動させ、被害状況の調査や行方不明者の捜索を実施するとともに、航行警報等を発出し、付近航行船舶等への情報提供を行いました。また、石川県等からの要請に基づき、巡視船艇・航空機等による救急患者等の搬送、支援物資の輸送や給水支援を行うとともに、測量船等による港内調査を速やかに実施し、海上輸送ルートの確保に貢献しました。

巡視船による給水支援(秋田県男鹿市)

巡視船による給水支援(秋田県男鹿市)

航空機による傷病者搬送(沖縄県渡嘉敷村)

航空機による傷病者搬送(沖縄県渡嘉敷村)

巡視船による関係機関職員の搬送(石川県能登町)

巡視船による関係機関職員の搬送(石川県能登町)

航空機による支援物資の輸送(石川県輪島市)

航空機による支援物資の輸送(石川県輪島市)

2 東日本大震災からの復旧・復興に向けた取組

海上保安庁では、引き続き第二管区海上保安本部を中心に、東日本大震災からの復旧・復興に向けた取組を実施しています。

令和5年においても、地方公共団体の要望に応じ、潜水士による潜水捜索や警察、消防との合同捜索を実施しています。

自然災害に備える体制の強化
1 海上交通の防災対策

海上保安庁では、近年、激甚化、頻発化する自然災害においても、海上交通の安全確保を図るため、国土強靱化基本計画に基づき、「走錨事故等防止対策」、「レーダーの耐風速対策」、「航路標識の耐災害性強化対策」及び「航路標識の老朽化等対策」に取り組み、灯台をはじめとする航路標識関係施設の強靱化を推進しています。

また、船舶交通がふくそうする東京湾、伊勢湾、大阪湾を含む瀬戸内海では、湾外避難などの勧告・命令制度や、同制度に基づく措置を円滑に行うための官民の協議会を設置するなどして、走錨に起因する事故の防止に取り組んでいます。


走錨事故等防止対策 レーダーの耐風速対策 航路標識の老朽化等対策
航路標識の耐災害性強化対策
2 防災情報の整備・提供

海上保安庁では、災害発生時の船舶の安全や避難計画の策定等の防災対策に活用していただくため、防災に関する情報の整備・提供も行っています。西之島をはじめとする南方諸島や南西諸島等の火山島や海底火山については海底地形調査、火山の活動状況の監視を実施し、付近を航行する船舶の安全に支障を及ぼすような状況がある場合には、航行警報等により航行船舶への注意喚起等を行っています。

そのほかにも、船舶の津波避難計画の策定等に役立つように、大規模地震による津波被害が想定される港湾及び沿岸海域を対象に、予測される津波の到達時間や波高、流向・流速等を記載した「津波防災情報図」を「海しる」のテーマ別マップ等で、インターネットにて公開しています。

また、「海の安全情報」において、自然災害に伴う港内における避難勧告、航行の制限等の緊急情報のほか、気象現況等を提供しています。

3 海底地殻変動の観測

日本周辺の海溝では日本列島がある陸側プレートの下に海側のプレートが沈み込んでいます。海側プレートの沈み込みに伴う陸側プレートの変形によって蓄積されたひずみが、プレート境界面上のすべりとして急激に解放されることで、海溝型地震が発生すると考えられています。海上保安庁では、GNSS測位と水中音響測距技術を組み合わせたGNSS-A海底地殻変動観測を平成12年度から行っています。この観測では、将来の海溝型地震の発生が予想される南海トラフや、東北地方太平洋沖地震後の挙動が注目される日本海溝沿いの海底に観測機器を設置し、測量船を用いてプレートの変形に伴う海底の動き(地殻変動)を調べています。

観測によって得られる、地震発生前のひずみの蓄積過程や地震時のひずみの解放等に伴う海底地殻変動データは、陸上のGNSS観測では知り得ない貴重な情報を有しており、海溝型地震の発生メカニズムの解明において非常に重要な役割を果たしています。海上保安庁は、地震調査研究推進本部や気象庁の南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会に参加し観測結果を報告することで、地震・地殻活動の評価に貢献しています。

*GPS等の人工衛星から発射される信号を用いて地球上の位置等を測定する衛星測位システムの総称

4 関係機関との連携・訓練

自然災害に対して、迅速かつ的確に対応するためには、地方公共団体や関係機関との連携が重要です。

海上保安庁では全国各地の海上保安部署に配置される地域防災対策官を中心に、平素から地方公共団体や関係機関等と顔の見える関係を築き、情報共有や協力体制の整備を図るとともに、非常時における円滑な通信体制の確保や迅速な対応勢力の投入等、連携強化を図ることを目的に合同訓練を実施しています。

令和5年度は、268回、関係機関等との合同訓練をしました。

また、主要な港では、関係機関による「船舶津波対策協議会」を設置し、海上保安庁が収集・整理した津波防災に関するデータを活用しながら、港内の船舶津波対策を検討しています。

今後の取組

激甚化・頻発化する自然災害への対応をより一層強化していくため、海上保安庁では、巡視船艇・航空機等の必要な体制の整備をはじめ、各種訓練の実施、地方公共団体や関係機関との連携強化、防災情報の的確な提供、航路標識の強靱化、走錨に起因する事故の未然防止など、引き続き各種取組を推進していきます。