海上保安レポート 2024

はじめに


TOPICS 海上保安の1年


特集 海をかけるひと


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 生命を救う

2 治安の確保

3 領海・EEZを守る

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 海上交通の安全を守る

8 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

3 領海・EEZを守る > CHAPTER V. 海洋権益確保のための海洋調査
3 領海・EEZを守る
CHAPTER V. 海洋権益確保のための海洋調査
海洋権益の確保
1 海洋情報の整備

四方を海に囲まれた我が国にとって、領海排他的経済水域(EEZ)等の海洋権益を確保することは極めて重要であり、そのためには基礎となる海洋情報の整備が不可欠です。

海上保安庁では、他国による日本とは異なる主張に対し、我が国の海洋権益を確保するため、海洋調査の実施などにより、我が国周辺海域における基礎的な海洋情報を整備しています。

2 海洋調査能力の強化

海上保安庁は、平成28年に決定された「海上保安体制強化に関する方針」に基づき、大型測量船「平洋」及び「光洋」、測量機「あおばずく」、自律型海洋観測装置(AOV)などの整備を進めてきました。

また、令和4年12月、「海上保安能力強化に関する方針」が決定され、今後は本方針に基づき、測量船や測量機器等の整備や高機能化といったハード面での能力向上に加えて、取得したデータをとりまとめ、論文等により対外発信するために必要な最新の情報処理技術の活用といった、ソフト面での能力強化にも取り組んでいきます。これらにより、海洋権益確保に資する優位性を持った海洋調査能力を構築していきます。

「あおばずく」

浅海域の海底地形調査を実施(MA871、ビーチ350)

浅海域の海底地形調査を実施
(MA871、ビーチ350)

AOV

潮位観測を実施

潮位観測を実施

自律型潜水調査機器(AUV)

海底地形調査を実施(写真は測量船「平洋」搭載のもの)

海底地形調査を実施
(写真は測量船「平洋」搭載のもの)

「光洋」

沖合の海底地質を中心とする調査を実施

沖合の海底地質を中心とする調査を実施

3 海洋境界をめぐる主張への対応

国連海洋法条約の関連規定に基づき、沿岸国は、基本的に、領海の基線から200海里までの排他的経済水域(EEZ)及び大陸棚の権原を有しています。しかし、我が国と東シナ海をはさんで向かい合っている国との領海の基線の間の距離は400海里未満であるため、双方のEEZ及び大陸棚が重なる部分について、相手国との合意により境界を画定する必要があります。

中国及び韓国の大陸棚延長申請への対応

中国及び韓国は、東シナ海における境界画定は東シナ海の特性を踏まえるべきであり、沖縄トラフで大陸性地殻が切れると主張し、平成24年12月、大陸棚限界委員会に対し、沖縄トラフまでを自国の大陸棚とする大陸棚延長申請を行いました。昭和57年に採択された国連海洋法条約の関連規定とその後の国際判例に基づけば、向かい合う国の距離が400海里未満の水域において境界を画定するにあたっては、自然延長論が認められる余地はなく、また、沖縄トラフのような海底地形に法的な意味はありません。したがって、大陸棚を沖縄トラフまで主張できるとの考えは、現在の国際法に照らせば根拠に欠けます。

※国連海洋法条約は、沿岸国の大陸棚を領海の基線から200海里と定める一方、海底地形等の条件を満たせば、200海里を超える大陸棚を設定できることを定めている。

中国及び韓国の大陸棚延長申請に対する我が国の立場は、「国連海洋法条約の関連規定に従って、両国間それぞれの合意により境界を画定する必要があり、中国及び韓国の申請については、審査入りに必要となる事前の同意を与えていない」というものであり、大陸棚限界委員会に中国及び韓国の申請を審査しないよう求めた結果、同委員会は中国及び韓国の大陸棚延長申請の審査順が到来するまで、審査を実施するか否かの判断を延期しています。

しかしながら、中国及び韓国は海洋調査体制を強化しており、我が国としても科学的調査データを収集・整備しておく必要があります。

今後の取組

海上保安庁では、我が国の海洋権益を確保するため、外務省等の国内関係機関との連携・協力を進めつつ、他国による日本とは異なる境界画定の主張に対応するために、必要な海洋調査を計画的に実施していきます。

領海・EEZはどう決まる?

国連海洋法条約によると、領海EEZの外縁の根拠について「通常の基線は、沿岸国が公認する大縮尺海図に記載されている海岸の低潮線とする」とされています。低潮線とは、海面が最も低いときの陸地と水面の境界線のことであり、この低潮線の位置をより精密な調査によって決定することで、領海EEZの範囲が明確になります。

我が国の海図を作製・刊行している海上保安庁では、低潮線の位置を精密に調査するために、航空機や自律型海洋観測装置(AOV)による調査を実施しています。航空レーザー測深機により取得する水深が浅い海域や岩礁地帯の詳細な海底地形データと、AOVにより洋上で長期間にわたり取得した潮位データを基に算出された最も低くなる水面「精密最低水面」を組み合わせることで、従来よりも高精度に低潮線の位置を決定でき、新たな低潮高地の発見等、領海EEZの拡大につながることが期待されます。

海上保安庁では引き続き、最先端の技術を用いた精密低潮線調査を実施していきます。