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2 治安の確保
CHAPTER VII. 海賊対策
全世界の海賊及び船舶に対する海上武装強盗(以下「海賊等」)事案は、世界各国の政府機関や海事関係者の懸命な取組により近年減少傾向にあるものの、依然として海賊等の脅威は存続しています。
主要な貿易のほとんどを海上輸送に依存する我が国にとって、航行船舶の安全を確保することは、社会経済や国民生活の安定にとって必要不可欠であり、極めて重要な課題です。
海上保安庁では、東南アジア海域等へ巡視船を派遣し、海賊対策のためのしょう戒や沿岸国海上保安機関に対する法執行能力向上支援等を行うとともに、海賊対処のため、ソマリア沖・アデン湾に派遣されている海上自衛隊の護衛艦へ海上保安官を同乗させるなど、海賊対策を実施しています。
令和5年の現況
東南アジア海域の海賊等について
令和5年の東南アジア海域における海賊等発生件数は67件であり、前年より増加しました。また、マラッカ・シンガポール海峡における海賊等発生件数は38件(上記件数の内数)発生しており、現金、乗組員の所持品、船舶予備品等の窃盗が多数を占めています。
これらの海賊対策のため、海上保安庁では、平成12年から東南アジア海域等に巡視船・航空機を派遣し、公海上でのしょう戒のほか、寄港国海上保安機関等との連携訓練や意見・情報交換を行うなど連携・協力関係の推進に取り組んでいます。令和5年5月、12月及び令和6年1月には、巡視船・航空機をフィリピン周辺海域やインド等に派遣し、沿岸国海上保安機関と連携訓練を実施しました。
令和5年5月 フィリピンとの連携訓練
令和6年1月 インドとの連携訓練
ソマリア沖・アデン湾の海賊等について
ソマリア沖・アデン湾における海賊等発生件数は、国際海事局(IMB:International Maritime Bureau)の年次報告書によると、令和5年は1件でした。
ソマリア国内の不安定な治安や貧困といった海賊等を生み出す根本的な要因が未だ解決していない状況にかんがみれば、海賊等の脅威は存続しているといえます。海上保安庁では、海賊対処のために派遣された海上自衛隊の護衛艦に、海上保安官を同乗させ、海賊の逮捕、取調べ、証拠収集等の司法警察活動に備えつつ、自衛官とともに海賊行為の監視、情報収集等を行っており、平成21年に第1次隊を派遣して以降、令和6年3月末までに合計47隊379名を派遣しています。
令和5年は、ジブチ共和国沿岸警備隊と海賊護送訓練を実施するなど、連携強化に取り組みました。
今後の取組
海上保安庁では、今後とも、海賊対処のために派遣される海上自衛隊の護衛艦に海上保安官を同乗させるほか、ソマリア沖・アデン湾や東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関に対する法執行能力向上支援にも引き続き取り組み、関係国、関係機関と連携しながら、海賊対策を的確に実施していきます。
ソマリア沖・アデン湾における海上保安官の活動
現場の声
第45次ソマリア周辺海域派遣捜査隊 隊長 宮本 幹央
我々が所属した第45次ソマリア周辺海域派遣捜査隊は、令和5年6月に海上自衛隊護衛艦「いかづち」に乗艦して横須賀港を出港し、197日間の派遣を完遂しました。
派遣中は司法警察活動のための即応体制を維持しつつ、海上自衛官と連携した海賊逮捕・護送に関する様々な訓練を重ねながら、海賊事案の発生に備えました。
ソマリア周辺海域における海賊事案を受けて開始された当該海域への海上保安官の派遣も我々45次隊の時点で14年が経過し、360名の海上保安官がソマリア周辺海域派遣捜査隊として、これまで経験したことのない酷暑と異国文化の洗礼を浴びながら当該海域での業務に従事してきました。
一時期は沈静化していたソマリア周辺海域の海賊も、最近は周辺地域の混乱を受けて再び活性化の兆候が見られます。国際物流の要衝となる当該海域の安定は日本に限らず世界経済の安定に直結しており、海上保安庁は今後も国際社会の一員として、海上自衛隊と連携してソマリア周辺海域の治安確保に貢献していきます。
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