海上保安レポート 2024

はじめに


TOPICS 海上保安の1年


特集 海をかけるひと


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 生命を救う

2 治安の確保

3 領海・EEZを守る

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 海上交通の安全を守る

8 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

2 治安の確保 > CHAPTER V. テロ対策
2 治安の確保
CHAPTER V. テロ対策

世界各地において、イスラム過激派やその思想に影響を受けたとみられる者等によるテロ事件が多発しており、また、ISIL等のテロ組織が日本を含む各国をテロの標的として名指しして、アジア諸国においてもISIL等によるテロが相次ぐなど、国際テロの脅威が継続しています。さらに、ドローンを使用したテロ等、新たなテロの脅威への対策も重要な課題となっています。

海上保安庁では、巡視船艇・航空機による監視警戒、関連情報の収集、関係機関との緊密な連携による水際等でのテロ対策に加え、海事関係者や事業者等に対して自主警備の強化を働きかけるとともに、不審事象の情報提供を依頼するなど、官民一体となったテロ対策を推進し、より一層テロの未然防止に万全を期していきます。

令和5年の現況

海上保安庁では、巡視船艇・航空機による原子力発電所や石油コンビナート等の重要インフラ施設警戒のほか、旅客ターミナル・フェリー等のいわゆるソフトターゲットにも重点を置いた警戒を実施しています。

また、国際テロ等を未然に防止するために、人及び物の流れの拠点である港湾においてテロ対策をはじめとする保安対策の一層の強化を図っており、「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」に基づく通報のあった、外国からの入港船舶1,740隻に対して立入検査を行いましたが、テロとの関連が疑われる船舶は認められませんでした。国際港湾においては、港湾危機管理官を中心に、警察、入管、税関、港湾管理者等の関係機関や港湾関係者と緊密に連携しながら、不審事案発生時に備えた合同訓練や港湾保安設備の合同点検等、間隙のない水際対策に取り組んでいます。

このほか、海上や臨海部において、天皇陛下や皇族方の警衛、国内外の要人の警護及び祭礼等の行事に際して不測の事態に備えた警備実施を行い、テロ等違法行為の未然防止に取り組んでいます。

原発警戒

原発警戒

立入検査の状況

立入検査の状況

関係機関との合同訓練

関係機関との合同訓練

港湾保安設備の合同点検

港湾保安設備の合同点検

新たな脅威への対応

近年、世界各国でドローンを用いたテロ事案等が発生しており、我が国においてもそのような新たなテロの脅威に対し、「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」等を適切に運用して未然防止を図っているところです。海上保安庁においては、関係機関と連携して不審なドローンの飛行に関する情報を把握するとともに、ドローン対策資機材を活用するなど、複合的な対策を講じています。

G7広島サミットにおける海上警備

令和5年5月19日から同月21日までの間、広島県広島市に各国の首脳等が集まり、G7広島サミットが開催されました。

世界中から注目を集めるサミットは、過去にもテロの標的とされており、現下の極めて厳しいテロ情勢に鑑みて、開催地のみならず、全国的にテロ警戒を強化する必要があり、また、日本国内においても要人を狙ったローンオフェンダー型の事案が相次いで発生したところ、要人警護の重要性及び国民の要人警護に対する関心が一層の高まりをみせることとなり、G7広島サミットの警備情勢は緊張を極めるものとなりました。

さらに、G7広島サミットは、会議場が海に囲まれた臨海部にあったことに加え、各国の首脳等が船舶に乗船して会議場と訪問先の宮島との間を移動することも計画されていたため、海上での警備・警護を担う海上保安庁の役割は極めて重要なものとなりました。

このような状況の中、海上保安庁においては、本庁及び第六管区海上保安本部に海上警備・警護対策本部等を設置し、警察等関係機関との連携を密にして必要な体制を構築し、G7広島サミット期間中には日本全国から80隻を超える巡視船艇等、ヘリコプター4機、無操縦者航空機2機を投入して海上警備・警護にあたりました。

また、海事・漁業関係者等と連携したテロ対策の取組として、会議場等周辺海域の安全を確保するため「航行自粛海域」や「事前通報対象海域」を設定し、海事・漁業関係者等に、G7広島サミット期間中の入出港をなるべく避けるといった運航調整や、対象海域を通航する際の事前通報などにご協力をいただきました。加えて、会議場等のみならず、旅客ターミナル・フェリー等のソフトターゲットがテロの標的となる可能性もあることから、官学民が参画する「海上・臨海部テロ対策協議会」において作成した「テロ対策啓発用リーフレット」を配布するなどして、海事・漁業関係者等に、自主警備の強化や情報提供等のご協力をいただき、官民一体となってテロ対策に取り組み、海上警備・警護を完遂することができました。

全国から集結した巡視艇

全国から集結した巡視艇

G7広島サミットにおける海上警備の様子

G7広島サミットにおける海上警備の様子

官民一体となったテロ対策の推進

公共交通機関や大規模集客施設といった、いわゆるソフトターゲットはテロの標的となる傾向にあり、これらは日常の身近なところで発生する可能性があるため、この対策には国民の皆様の理解と協力が不可欠です。

このため、海上保安庁では、官民が連携したテロ対策の推進に力を入れており、臨海部のソフトターゲットである旅客ターミナルやフェリー等の海事・港湾事業者等とともにテロ対策を進めています。

平成29年度から、官学民が参画する「海上・臨海部テロ対策協議会」を開催し、官民一体となってテロ対策について議論・検討しており、令和5年度においては、G7広島サミット等に向けて同協議会作成の「テロ対策啓発用リーフレット」を各協議会メンバーで周知するなどして活用したほか、G7広島サミットにおけるテロ対策の取組を振り返り、令和7年に大阪府で開催される「2025年日本国際博覧会」(大阪・関西万博)に向けたテロ対策の強化策等について議論を重ねています。

海上・臨海部テロ対策協議会の状況

海上・臨海部テロ対策協議会の状況

テロ対策啓発用リーフレット

テロ対策啓発用リーフレット

今後の取組

海上保安庁においては、今後もテロが現実の脅威であるとの認識の下、テロの未然防止やテロ発生時の対処にかかる体制を確実に整備していくとともに、関係機関や事業者等とより緊密に連携し、官民一体となってテロ対策に取り組んでいきます。