海上保安レポート 2016

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 法治平安の海を護る


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る


語句説明・索引


図表索引


資料編

海上保安官の仕事 > 海上保安庁のスペシャリスト集団
海上保安官の仕事
海上保安庁のスペシャリスト集団

海上保安庁には、高度な専門技術を有するスペシャリスト集団が存在します。

特殊救難隊
特殊救難隊(1)
 
特殊救難隊(2)

特殊な海難に対応するためのスペシャリストで、映画「海猿」のモデルにもなっており、転覆した船舶や火災を起こした危険物積載船等における人命救助や火災消火、ヘリコプターからの降下、吊り上げ救助等高度な救助技術と専門的知識を有しています。

特殊救難隊は昭和50年に発足し、平成27年10月に発足40年を迎え、6隊36名編成で、全国の特殊な海難に航空機で即座に対応できるように24時間出動できる体制をとっています。これまでの出動実績は、出動件数4,863件、救助人員2,530人となっています(平成28年3月31日現在)。また、自然災害への対応や国際緊急援助隊(JDR)としての海外派遣など幅広い場面で活躍しています。


沿革
沿革
  • 昭和50年 第三管区海上保安本部警備救難部救難課に「特殊救難隊」が発足(5名)
  • 昭和57年 羽田沖日本航空旅客機墜落事故に出動
  • 昭和61年 「羽田特殊救難基地」設立
  • 平成7年 阪神・淡路大震災に出動
  • 平成9年 日本海でのナホトカ号海難に出動
  • 平成16年 伏木富山港沖練習帆船座礁海難に出動
  • 平成23年 東日本大震災に出動
  • 平成27年 特殊救難隊発足40周年

※国際緊急援助隊として、海外派遣実績11件


現場の声

第三管区海上保安本部 羽田特殊救難基地 第四特殊救難隊員


特殊救難隊は高度な救助技術と専門的知識を必要とする救難業務に携わっています。私は隊員として日本全国で発生する海難事故に対応するために、日々訓練を積み重ねています。訓練は厳しいものですが、人命救助や海の安全のために、自分の限界を見極めて冷静に判断する力を養っています。実際に海難現場に出動して、潜水捜索や要救助者のヘリコプターへの吊上げ救助、火災船の消火活動などを行っていく中で、改めて責任の重さを感じています。今でも忘れられない出来事としては、船舶の乗組員の方を救助して医師に引き渡す際に「ありがとうございました」と言われたことです。たったその一言のおかげで、充実感が体を満たしてくれました。厳しい訓練メニューや、常々危険と隣り合わせの現場など、特殊救難隊として大変なこともありますが、それ以上にやりがいのあるこの仕事を選んで良かったと思います。

機動防除隊

海上災害に対応するためのスペシャリストです。海難等により海上へ流出した油、有害液体物質、危険物等の防除措置や海上火災の消火及び延焼の防止措置等について現場で関係者への指導・助言や関係者間の調整を行うほか、必要に応じて自らも防除措置等を行います。

機動防除隊は平成7年に発足し、平成27年4月には発足20周年を迎えました。

この間の出動件数は、332件となっています。(平成27年4月1日現在)

また、国際緊急援助隊(JDR)として海外派遣等、様々な場面で活躍しています。


防除措置計画の立案
防除措置計画の立案
流出した油の採取を行う機動防除隊員
流出した油の採取を行う機動防除隊員

沿革
沿革
  • 平成7年 第三管区海上保安本部警備救難部救難課に「機動防除隊」が発足(2隊8名体制)
  • 平成9年 日本海でのナホトカ号海難や東京湾でのダイヤモンドグレース号海難に出動
  • 平成10年 「横浜機動防除基地」設立(3隊12名体制)
  • 平成19年 HNS汚染事故への準備及び対応の充実強化(4隊16名体制)
  • 平成23年 東日本大震災に出動
  • 平成25年 釜山沖でのケミカルタンカー衝突火災海難に出動
  • 平成27年 機動防除隊発足20周年

※国際緊急援助隊として、海外派遣実績4件

※HNS…Hazardous and Noxious Substancesの略語で有害危険物質のこと(ベンゼン・キシレン等)


現場の声

第三管区海上保安本部 横浜機動防除基地 主任防除措置官


機動防除隊は、全国で発生する海難等により海上に流出した油、有害液体物質、危険物等の防除措置、油等の排出に伴う海上火災の消火及び延焼の防止措置に関し、現場における指導・助言を行うとともに、専門的な知識・技能を必要とする場合等においては自らも防除措置を実施する海上保安庁唯一の部隊です。

現場での対応は、迅速な判断が求められることや、防除作業が円滑に実施されるよう関係者間の調整役を担うなど、難しい場面も多々ありますが、日々の訓練・研修で培った知識・技術が現場での対応に直結するので、非常にやりがいを感じることができます。

また、専門知識を活用し、全国各地で講習会等を通じて油防除の手法等に関する知識の普及に取り組んでいるほか、国際緊急援助隊として海外で発生した油流出事故等への対応や、東南アジア諸国に対して技術支援や教育訓練を実施するなど、活躍の場が日本国内に留まらないことも機動防除隊の魅力の一つだと感じています。

警備実施等強化巡視船
制圧訓練
制圧訓練

警備実施等強化巡視船は、違法・過激な集団による海上デモや危険・悪質な事案、テロ警戒等に対応するため、必要な知識、技能及び装備を備えた特別警備隊が配置されている巡視船です。海の機動隊とも言うべき警備実施等強化巡視船では、男性職員だけでなく女性職員も乗船し、活躍しています。


警備実施等強化巡視船「すずか」
警備実施等強化巡視船「すずか」
移乗訓練
移乗訓練

現場の声

第四管区海上保安本部 尾鷲海上保安部 巡視船すずか 特別警備隊員


私は、警備実施等強化巡視船「すずか」に乗船しています。

「すずか」には、私を含め女性海上保安官が2名乗船しています。本船は、一般の巡視船で行っている業務にさらに警備実施等強化巡視船としての業務が加わります。たとえば、テロや船内暴動など凶悪な事案には、警備実施等強化巡視船が優先的に対応します。そのため「すずか」では、武器の取扱い訓練やゴムボートの操船訓練、制圧、大楯を持った部隊行動訓練をすることで、日ごろから警備能力の維持向上を図っており、現在は、伊勢志摩サミットにおける警備実施に向けて集中的に訓練を行っています。

私は、乗組員で編成される特別警備隊として、警備実施の際の記録を担当し、カメラなどの記録資機材を取扱います。カメラの取扱いが苦手で戸惑いもありましたが、繰返し扱うことで、知識はもちろんのこと、技術も向上してきたと実感しています。

警備実施等強化巡視船に乗っていると、どうしても男女の力の差に敵わず、訓練で遅れを取ることがありますが、そこで諦めるのではなく、持ち前の負けん気を発揮して、男性職員と一緒に大楯を持って訓練に励んでいます。

(巡視船すずか機関士補)


私が乗船している警備実施等強化巡視船「すずか」では、大規模警備、凶器を使用した凶悪事案、テロ事案等、一般巡視船では対応が困難な事案の対応を主な任務としています。このため「すずか」には、特別警備隊が編成され、日夜、大楯・けん銃・ゴムボート等を使用した実戦的な訓練に励み、常に事案発生に備えています。現在、私は平成28年5月に開催される伊勢志摩サミットの警備実施に向け、ゴムボートの操船者として訓練に打ち込んでいます。高速機動訓練は、体力的にも精神的にも辛いこともありますが、訓練のたび能力の向上が感じられ、次の目標への大きな意欲になります。また、出動した警備事案等が無事に終わったときには、海上における治安の確保に貢献できたという大きな充実感と達成感を感じることができます。「自分たちが日本の海を守っている」という誇りを胸に、これからも日々の訓練に全力で打ち込み、与えられた任務を遂行していきます。

(巡視船すずか運用司令士補)

鑑識指定船
特殊光線を用いた撮影
特殊光線を用いた撮影

鑑識指定船は、船舶の衝突・乗揚げ等の鑑識が必要な事案が発生した際に、現場鑑識を実施するため鑑識に関する専門的知識、技術を有したスペシャリスト集団です。


抹消された文字の復元
抹消された文字の復元
足跡採取訓練
足跡採取訓練

現場の声

第七管区海上保安本部 門司海上保安部 巡視船きくち 主任航海士


私は、海上保安大学校を卒業し、PM型巡視船「きくち」の主任航海士として働いています。

本船は、鑑識指定船であり、海難救助等の通常業務に加えて事件発生時の初動捜査において、現場に残された数々の証拠物の検出・保全を専門的に行う船です。

鑑識業務の実動の際には、自分自身の毛髪や指紋等を現場に残さないように細心の注意を払うことのほか、目に見えない証拠物の検出作業等を行うため、慎重さと根気が必要となります。犯罪捜査の中で特に証拠の確保は必要不可欠であり、責任感を持ちながら業務に当たっています。

また、鑑識指定船として培ってきた知識・技術を広めるべく、各部署において積極的に鑑識研修を実施しています。

鑑識技術は日々進歩しており、常に勉強が必要となりますが、自己研鑽に励み、更なる鑑識技術の向上に努めていきたいと思います。


現場の声

第七管区海上保安本部 門司海上保安部 巡視船きくち 航海士補


私は、鑑識指定船に乗船しています。主な仕事内容としては、他の職員に対する鑑識技能の向上のため、所属管区内や他管区の部署で鑑識の研修を行っています。他の職員に教えることは、決して簡単なことではありませんが、自ら責任感を持ち、勉強に励むことにより、更なる鑑識の知識・技術を身に付けることができるのでやりがいを感じています。また、日々の勉強が功を奏して、平成27年度には鑑識上級の資格を取得することができました。私がこれまでにかかわった鑑識活動は、証拠品からの指紋検出や、DNA採取等がありますが、更に鑑識の知識・技術を高めることによって、より高度な鑑識能力が求められる現場において活躍できるように日々精進していきたいと考えています。

海上交通センター
海上交通センターから見た備讃瀬戸
海上交通センターから見た備讃瀬戸

海上交通センターは、船舶の安全運航に必要な情報の提供と航行管制を行うことにより、ふくそう海域における海上交通の安全を図っています。現在、海上交通センターは、東京湾、伊勢湾、名古屋港、大阪湾、備讃瀬戸、来島海峡及び関門海峡の7か所に設置されています。


現場の声

第六管区海上保安本部 備讃瀬戸海上交通センター 運用管制課 運用管制官付


私は、備讃瀬戸海上交通センターで運用管制官として業務を行っております。業務内容としては、船舶が安全に航行できるよう、レーダー・AIS等により船舶の動静を監視し、無線電話等を使用した情報提供業務、海上交通安全法港則法等各種法令に基づいた航行管制業務などです。

備讃瀬戸海上交通センターが担当する備讃海域は東西約90kmに及ぶ広い海域で、多数の島や浅瀬が点在しています。また漁業が盛んなこともあり、多くの漁船が海域内で操業しています。運用管制官の業務はとてもやりがいのある仕事です。今まで一番嬉しかったことは、漁船に近づいていた外国船に対し情報提供を行ったことにより衝突を回避できたことです。業務中には、緊迫した場面に遭遇することが多々あり、誤った情報提供を行えば大規模海難に繋がることもあります。一方で、他の運用管制官と協力し、的確な情報提供を行ったことにより危険な状況等を回避した際の達成感は格別です。

運用管制業務は、各個人に対し責任感が求められる仕事ですが、瀬戸内海の海を守るため、航行船舶の安全を守るため、これからも頑張っていきます。

海上保安試験研究センター
微細物の分析
微細物の分析

東京都立川市の海上保安試験研究センターで働く職員は、海上保安業務に使用する資機材や海上犯罪の科学捜査に関する試験・研究、海洋汚染の原因となる物質等の分析・鑑定等を行っています。


現場の声

海上保安庁 総務部 海上保安試験研究センター 科学捜査研究課 課員


私は、海上保安学校を卒業後、巡視船勤務を経て、平成22年から海上保安試験研究センターで勤務しています。現在は、科学捜査研究課で海上犯罪捜査のため、事件現場で採取された証拠試料を科学的に分析する仕事をしています。現場で採取される試料は極微量のものや、状態の悪いものなど、様々な状態であるため、正確かつ適切な分析ができるように、諸先輩方からアドバイスをいただきながら、日々試料と向き合っています。

海上保安学校学生の頃から、科学捜査に強い興味を持っていたため、現場に赴任してすぐに、現在の仕事を希望しました。この仕事は、事件解決の糸口となることが多いため非常に責任の重い仕事ですが、犯罪捜査を支えるやりがいのある仕事です。

海上保安庁音楽隊

海上保安庁音楽隊は、昭和26年、旧海軍軍楽隊員を中心として組織されましたが、翌年海上警備隊(現海上自衛隊)の設立とともに同隊に移管されたため、海上保安庁には長い間音楽隊は存在していませんでした。

しかしながら、音楽演奏を通じて国民の皆様との親交を深め、海上保安庁の活動に対するご理解をいただくとともに、海上保安庁職員の士気の高揚を図ることを目的として、昭和63年に海上保安庁創設40周年を契機として37年振りに再結成されました。

隊員は、荒れ狂う海でのレスキュー活動や海上犯罪の予防・鎮圧、捜査活動といった現場第一線等で活躍してきた海上保安庁職員の中から選抜され、本庁等において、他の職員と同様に様々な分野の海上保安業務を行いながら、年間を通じて演奏活動に励んでおり、任期が終了すると再び現場へ帰っていきます。

定期演奏会をはじめ海や国土交通に関する様々な式典やイベント等において、関東圏を中心として年間20回程度の演奏活動を行っており、演奏の合間に海上保安庁の業務紹介等のPR活動も行っています。


海上保安庁音楽隊
JAPAN COAST GUARD BAND

http://www.kaiho.mlit.go.jp/doc/band/ongaku.html

QRコード
定期演奏会(文京シビックホール)
定期演奏会(文京シビックホール)

現場の声

音楽隊隊長 三谷 聡史


演奏会の様子
演奏会の様子

平成28年2月3日(水)夕方、東急東京メトロ渋谷駅の地下通路広場において、ウィンターコンサート(主催:東京地下鉄株式会社、後援:東京急行電鉄株式会社)が開催され、海上保安庁音楽隊による演奏を行いました。

稲垣征夫技術顧問(発足当時から指導)の指揮により、行進曲や演歌メドレー等全12曲を演奏し、合間には海上保安庁緊急通報用電話番号118番の広報を行いました。

約900名もの観客に演奏を楽しんでいただき、寒かった会場が観客の熱気に包まれ、大盛況に終了しました。


平成27年度の活動状況

4月29日 帆船日本丸公開30周年記念式典(横浜市 日本丸メモリアルパーク)

5月12日 殉職者追悼式(江東区 海上保安庁海洋情報部)

5月12日 「海上保安の日」祝賀会コンサート(千代田区 中央合同庁舎3号館)

7月8日 サマーコンサート(千代田区 日比谷公園)

7月17日 海上保安庁音楽隊&豊橋市立東部中学校吹奏楽部ジョイントコンサート(豊橋市)

7月19日 重要文化財明治丸修復工事竣工式典(江東区 東京海洋大学)

7月20日 SAZANAMIコンサート(横浜市 横浜・八景島シーパラダイス)

7月20日 「IMO世界海の日パラレルイベント2015」レセプション(千代田区 ザ・キャピトル東急)

9月9日 ランチタイムコンサート(江東区 テレコムセンター)

10月1日 海上保安政策課程開講式(港区 政策研究大学院大学)

10月9日 都市緑化キャンペーン2015(千代田区 有楽町駅前広場)

10月10日 海上保安フェスタin横浜(横浜市 横浜海上防災基地)

10月23日 特殊救難隊発足40周年記念式典(横浜市 ロイヤルホールヨコハマ)

10月24日 2015海保フェアin立川(立川市 海上保安試験研究センター)

11月16日 第22回定期演奏会(文京区 文京シビックホール)

1月14日 ニューイヤーコンサートinかごしま(鹿児島市 鹿児島県文化センター)

2月3日 東急東京メトロ渋谷駅コンサート(渋谷区 渋谷駅構内13番出口方面)

3月19日 海上保安学校卒業式(舞鶴市)

3月20日 海上保安大学校卒業式(呉市)