海上保安レポート 2016

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 法治平安の海を護る


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る


語句説明・索引


図表索引


資料編

5 海を知る > CHAPTER I 海洋調査
5 海を知る
CHAPTER I 海洋調査

海上保安庁では、海上の安全確保、海洋権益の確保、海洋資源の開発・利用といった様々な目的のために海洋調査を実施しています。特に、近年では、我が国の管轄海域の管理や新たな海洋資源の開発・利用等への関心が高まる中、海洋権益確保の基礎となる海洋調査が重要となっています。

平成27年の現況
1 海洋権益の確保のために
海底地形調査
海底地形調査

四面を海に囲まれた我が国にとって、領海排他的経済水域(EEZ)等の海洋権益を確保することは極めて重要であり、その基礎となる海洋情報を整備することは不可欠です。海上保安庁では東シナ海において、測量船に搭載されたマルチビーム測深機や最新の調査機器である自律型潜水調査機器(AUV)等による海底地形や地殻構造等の調査を重点的に推進するとともに、航空機に搭載した航空レーザー測深機等により、領海EEZの外縁の根拠となる低潮線等の調査を実施しています。

AUVによる海底地形調査では、平成26年6月に沖縄県久米島沖の水深約1,400mの海底から熱水を噴出しているチムニー群を発見し、平成27年6月には、鹿児島県トカラ群島宝島沖の水深約80〜100mの海底(白浜曽根)にて、新たな熱水域を発見しました。この熱水域は、これまで東シナ海で発見されている熱水域の中では、極めて浅い海域にあり、海底の高まりや凹地状の火山地形も同時に確認されました。海底の高まりについては溶岩ドームであると考えられ、凹地の熱水活動からも未だ火山活動が継続している可能性があります。

これらチムニー群の発見や今回新たに発見された熱水域等の調査結果については、海洋開発や海底火山活動の解明のための基盤情報として役立つことが期待されています。

また、平成26年に続き、海上保安庁が行ってきた海底地形調査の努力が実り、平成27年10月にブラジルで開催された海底地形名小委員会において、我が国が提案した27件の海底地形名が承認されました。

「海底地形名小委員会(SCUFN)」副議長就任

平成27年10月にブラジルにて開催された、「海底地形名小委員会」において、我が国委員である海洋情報部海洋研究室小原上席研究官が同小委員会の副議長に就任しました。

海底地形名小委員会(SCUFN)とは、国際水路機関(IHO)とユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)の傘下にある、世界の海底地形名を公式に定める委員会で、IHO及びIOCから指名された計12名の海底地形学・海洋地質学・地球物理学等の専門家で構成される。年一回、開催される会合の他、オンラインで随時活発な議論がなされています。

2 海上の安全確保のために

船舶の安全な航行を確保するためには、最新の情報が掲載された海図が必要です。また、海難事故発生時の迅速・的確な救助活動を行うためには、漂流予測が重要となります。海上保安庁では、測量船や航空機等により海底地形の調査等を行い、海図を最新の情報に更新するとともに、測量船や海洋短波レーダー等により海潮流や水温などの観測を行い、漂流予測の精度向上を図るなど、様々な海洋調査により、海上の安全確保を支えています。


3 様々な目的のために

海洋調査は、海洋権益の確保や海上の安全確保といった目的のほか、海洋環境の保全や防災のためにも実施されています。

海上保安庁では、海洋環境の変化を的確に把握するため、海水や海底堆積物を採取し、汚染物質や放射性物質の調査を継続的に行っています。また、海底地殻変動観測や海底地形調査、海域火山の活動監視観測等を実施し、大規模地震発生のメカニズムや海域火山の構造等の解明に役立てています。

今後の取組み

海洋権益の確保のため、今後も引き続き、領海排他的経済水域(EEZ)等における海底地形や地殻構造等の調査を実施するとともに、低潮線等の調査を実施していきます。

また、水深や海潮流など最新の観測結果を海図漂流予測へ反映させることで、より一層海上の安全確保に努めます。

さらに、海洋汚染調査や海底地殻変動観測、海域火山の監視観測など、様々な目的に合わせた海洋調査を実施し、海洋情報の収集に努めます。

西之島の現状

海上保安庁では、防災等の目的のため、海域火山の監視観測も行っています。平成25年11月に39年ぶりに噴火を開始した西之島では、およそ2年にわたり活発な噴火活動が継続し、溶岩流によって島が大きく拡大しました。平成28年3月5日時点で西之島の面積は2.6km2であり、噴火前の島の約12倍となっています。

海上保安庁では、引き続き付近航行船舶に対して航行警報等により警戒を呼びかけるとともに、今後も観測を継続し、西之島の火山活動の推移を見守っていきます。

また、今回の噴火による西之島の拡大によって我が国の領海及び排他的経済水域(EEZ)が広がることが見込まれています。今後、火山活動が沈静化し、安全が確認された後に精密な水路測量を行い、噴火後の西之島とその周囲の領海基線海図に記載した段階で領海等の新たな範囲が画定することとなります。

噴火前と現在の西之島の比較
噴火前と現在の西之島の比較
 
海図
平成25年11月20日
平成25年11月20日
平成26年10月16日
平成26年10月16日
平成27年11月17日
平成27年11月17日
西之島周辺の海底調査
無人調査艇で計測された西之島周囲の海底地形
無人調査艇で計測された西之島周囲の海底地形

海上保安庁では、平成27年6〜7月に測量船と無人調査艇により噴火開始後初めて西之島周辺の海底地形等の調査を行いました。それまでの西之島の観測は航空機による上空からの監視のみであり、海面下の変化に関する情報は得られていませんでした。

無人調査艇(マンボウII)のマルチビーム音響測深機を使用して、西之島を中心とする半径4kmの噴火警戒範囲内の海底地形調査を実施したところ、おおむね水深200mまでの海底地形が明らかとなりました。また、得られた平成27年7月時点の地形データ(陸上部は国土地理院の測量)と噴火前の地形データから算出した今回の噴火(噴火開始〜平成27年7月)による噴出量は、総体積が約1.6億m3、総重量が約4億トン(全て溶岩流によると仮定)でした。これは、前回の40年前の西之島の噴火の約9倍に相当します。また、戦後に日本で発生した噴火の中では、雲仙普賢岳の噴火(1990〜1995年)の約6億トンに次いで多いことが判りました。

今回の調査で得られた西之島周辺の海底地形や西之島火山の地下構造等調査で得られるデータは、火山活動状況の総合的な把握に不可欠な資料となるとともに、海上交通安全の基礎資料として活用されます。


西之島周辺海域の調査の概要
西之島周辺海域の調査の概要
※噴火警戒範囲は平成27年7月現在
国際機関との連携・協調 〜国際水路機関(IHO)での取組み〜

IHOは、海図などの水路図誌の最大限の統一、水路測量の手法や水路業務の技術開発等を促進するために設立された国際機関で、現在85か国が加盟しています。海上保安庁はIHOを構成する複数の委員会や作業部会に参加するとともに、電子海図の新しい基準の策定などの議論に貢献しています。平成28年1月には、IHOが取り組む海洋の種々の空間データを視覚的に分かりやすい形で提供する情報基盤作成に関し、国際会議をIHOと協力してアジアで初めて開催し、我が国の取組みをアピールしました。

また、海上保安庁は、IHOの地域水路委員会の一つであり、東アジア沿岸国の水路当局が参加する、東アジア水路委員会(EAHC)に参画しており、平成27年10月に開催された総会において副議長に就任しました。今後も、海上保安庁は、水路分野での能力向上支援等の地域的課題に取組みます。