海では、船舶事故や海浜事故等により、毎年多くの命が失われています。
海上保安庁では、海難等による死者・行方不明者をできる限り減少させるため、安全意識の向上を目的とした海難防止思想の普及・啓発に努めるとともに、海難の発生に備えた救助体制の充実強化、民間救助組織等との連携・協力等に努めています。また、実際に海難が発生した場合には、早期に救助勢力を投入して、迅速な救助活動を行っています。
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2 生命を救う
CHAPTER I 海難救助
海では、船舶事故や海浜事故等により、毎年多くの命が失われています。 海上保安庁では、海難等による死者・行方不明者をできる限り減少させるため、安全意識の向上を目的とした海難防止思想の普及・啓発に努めるとともに、海難の発生に備えた救助体制の充実強化、民間救助組織等との連携・協力等に努めています。また、実際に海難が発生した場合には、早期に救助勢力を投入して、迅速な救助活動を行っています。 平成27年の事故船舶2,137隻のうち、要救助船舶は1,644隻でした。要救助船舶の中で、自力入港した182隻を除いた1,462隻のうち1,299隻が救助されました。 海上保安庁は、これらの事故に対し、巡視船艇延べ1,978隻、航空機延べ470機を出動させ、1,152隻に対して救助活動を行いました。 また、平成27年の船舶事故以外の乗船中の事故者は867人で、海浜事故の事故者は1,766人でした。事故者の中で、自殺や自力救助した989人を除いた1,644人のうち、919人が救助されました。 海上保安庁では、これらの事故に対し、巡視船艇延べ1,407隻、航空機延べ541機を出動させ、1,066人に対して救助活動を行いました。 平成27年の事故船舶2,137隻のうち、緊急通報用電話番号「118番」による海難等の発生情報の通報(第一報)を行った船舶は1,117隻であり、このうち913隻が携帯電話からの通報でした。 平成27年の船舶事故以外の乗船中の事故及び海浜事故者数2,633人のうち、緊急通報用電話番号「118番」による海難等の発生情報の通報(第一報)を行った者は719人であり、このうち324人が携帯電話からの通報でした。 1 海難情報の早期入手
海上保安庁では、海中転落者の海上における生存可能時間や救助に要する時間等を勘案し、人命を救助するために、海難発生から情報を入手するまでの所要時間を2時間以内にすることを目標としています。 このため、海上保安庁では、海上における事件・事故の緊急通報用電話番号「118番」を運用するとともに、携帯電話からの「118番」通報の際に、音声とあわせて位置情報を受信することができる「緊急通報位置情報システム」を導入しています。このシステムにより、迅速かつ的確な対応が可能となっています。 また、海上保安庁では、世界中どの海域からでも衛星等を通じて救助を求めることができる「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)」に基づき、24時間体制で海難情報の受付を行っています。 今後も、これらのツールを有効に活用しながら、海難情報の早期入手と初動対応までの時間短縮に努めていきます。 2 海上保安庁の救助・救急体制
〜『苦しい 疲れた もうやめた では 人の命は救えない』〜
海難救助には、海上という特殊な環境の中で、常に冷静な判断力と『絶対に助ける』という熱い想いが必要とされます。 海上保安庁では、巡視船艇・航空機を全国に配備するとともに、救助・救急体制の充実のため、潜水士や機動救難士、特殊救難隊といった海難救助のプロフェッショナルを全国各地に配置しています。 平成27年には、石垣航空基地に機動救難士を配置し、日本沿岸部における、救助・救急体制を充実させました。さらに、発足40周年を迎えた特殊救難隊は、新たな潜水資器材を導入し、特殊海難への対応を強化しています。 潜水士
転覆した船舶や沈没した船舶などから取り残された方の救出や、海上で行方不明となった方を潜水捜索することなどを任務としています。潜水士は、巡視船艇乗組員の中から選抜され、厳しい潜水研修を受けた後、全国22隻の潜水指定を受けた巡視船艇で業務にあたっています。 機動救難士
洋上の船舶で発生した傷病者や、海上で漂流する遭難者等をヘリコプターとの連携により迅速に救助することを主な任務としています。機動救難士は、ヘリコプターからの降下等、高度な技術を有するほか、隊員の約半数が救急救命士の資格を有しており、全国9か所の航空基地等に配置されています。 特殊救難隊
火災を起こした危険物積載船に取り残された方の救助や、荒天下で座礁船に取り残された方の救助等、全国で発生した高度な知識・技術を必要とする特殊海難に対応する海難救助のスペシャリストです。特殊救難隊は6隊36名で構成され、海難救助の最後の砦として、航空機やヘリコプターを使用して全国各地の海難に対応します。
3 救助・救急能力の向上
海上保安庁では、海難等により生じた傷病者に対し、容態に応じた適切な処置を行えるよう、専門の資格を有する救急救命士を配置するとともに、救急救命士が実施する救急救命処置の質を医学的観点から保障するメディカルコントロール体制を整備し、さらなる対応能力の向上を図っています。また、巡視船艇・航空機の高機能化とともに、救助資器材の整備等を行うことにより、救助・救急体制の充実強化を図っています。 また、我が国の広大な海で多くの命を守るためには、海面を漂う人や船がどの方向に流れてゆくかを算出する漂流予測が重要となります。 一人でも多くの命を救えるよう、気象庁の協力を得るなど、漂流予測の高精度化に努めています。 4 他機関との協力体制の充実
我が国の広大な海で、多くの命を守るためには、日頃から警察・消防等の救助機関や民間救助組織との密接な連携・協力体制を確立しておくことが重要です。特に、沿岸域で発生する海難に対しては、空白地域のない救助エリアの確保や円滑な救助活動を実施できるよう、合同海難救助訓練等を通じて、公益社団法人日本水難救済会やNPO法人日本ライフセービング協会などの民間救助組織との連携・協力体制の充実に努めています。 遠方海域で発生する海難に対しては、中国、韓国、ロシア、米国等周辺国の海難救助機関と協力して合同で捜索・救助を行うとともに、「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約(SAR条約)」に基づき、任意の相互救助システムである日本の船位通報制度(JASREP)を米国の通報制度(AMVER)と連携して運用し、効率的で効果的な海難救助に努めています(平成27年JASREP参加船舶2,467隻)。 遠方海域における救助事例
平成27年4月26日、千葉県南東約2,200キロメートルを航行中の日本漁船から、乗組員1名が吐血し、胃痛を訴えているとして救助要請がありました。海上保安庁では、巡視船を現場に急行させ、4月28日、巡視船搭載ヘリコプターにより患者を救助し、硫黄島に搬送しました。その後、硫黄島に待機させていた、医師が同乗した海上保安庁のジェット機により羽田空港まで搬送しました。 このように、遠方での海難の際には、巡視船や航空機を連携させるとともに、洋上救急制度を利用した医師の派遣など海上保安庁以外の様々な方の協力も必要です。これら様々な連携の結果、洋上での安全が守られています。 ※洋上救急制度とは、洋上の船舶上で傷病者が発生し、医師による緊急の加療が必要な場合に、医師等を海上保安庁の巡視船艇・航空機等により急送するとともに、傷病者を巡視船艇・航空機等に引き取り、医師の加療を行いつつ、陸上の病院に搬送する、世界唯一の先駆的な制度で、公益社団法人日本水難救済会が実施している事業です。昭和60年10月1日に制度が発足し、平成27年に三十年を迎え、これまでに827件、857名の方が救助されています。この間、海上保安庁からは巡視船艇587隻、航空機1,016機及び特殊救難隊598名等が出動しています。 ※平成28年3月末現在 |