海保業界用語【その12】
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課長C 「台風が接近しているから、所属の巡視船艇全船にゼンシンタイキするよう指示しておいて」
新人B 「ゼンシンタイキ???(全身タイツの聞き間違いか?)」
課長C 「最悪に備えて最善を尽くさないと、ね」
台風の接近など、海難の発生が想定されるときには、巡視船艇が前進待機して即応態勢をとります。
また、沿岸から遠く離れた海域にあらかじめ配備しておいて、不測の事態に備えることもあります。
課長C 「台風が接近しているから、所属の巡視船艇全船にゼンシンタイキするよう指示しておいて」
新人B 「ゼンシンタイキ???(全身タイツの聞き間違いか?)」
課長C 「最悪に備えて最善を尽くさないと、ね」
台風の接近など、海難の発生が想定されるときには、巡視船艇が前進待機して即応態勢をとります。
また、沿岸から遠く離れた海域にあらかじめ配備しておいて、不測の事態に備えることもあります。
新人B 「今度、巡視船●●の潤滑油が業者から納入されるんですが、誰と打合せをしたらいいですか?」
係長A 「●●のナンバンと話をしてみたらいいよ。」
新人B 「ナンバン? 南蛮??(チキン? 鯵?)」
昭和60年以前の巡視船乗組員の職名は、一般商船に類似していました。
【士官】船長、機関長、主計長、通信長、次席航海士、首席機関士など
【准士官】甲板長、操機長、補給長、電信長など
【科員】甲板次長、操だ員、機械員など
昭和61年以降は職制が大幅に変更され、士官等の区分も廃止。
船長、機関長、首席航海士、主任機関士、通信士、主計士補などとなりました。
ナンバン(Number One Oilerの略)は操機長のことで、現在の主任機関士(船務主任)です。
職制が変わって40年近くなりますが、今でもナンバンやボースン(甲板長)の名称が(非公式に)使われています。
新人B 「灯台や灯浮標に使われているLED灯器のⅢ型とかⅤ型とか、何が違うんですか?」
係長A 「何って、光度(光の強さ)が違うんだけど...」
新人B 「マーク1、マーク2とかみたいに、開発・改良した順番かと思っていました。」
係長A 「具体的には、Ⅲ型は有効光達距離3海里が必要な標識に使用するもので、Ⅴ型だと有効光達距離5海里だね。」
新人B 「有効光達距離??? 初めて聞く単語です。」
係長A 「有効光達距離は、航路標識の設計上の基準で、位置・灯質・灯色を十分確認できる距離のことだよ。」
新人B 「海図や灯台表に載っている光達距離とは違うのですか?」
係長A 「そうだね。じゃあ、いろいろある光達距離を整理してみようか。」
光達距離には、、次の4つがあります。
① 光学的光達距離
大気中で減衰・散乱しても計算上見える距離 大気の透過率0.85 限界可視照度0.0000002 lx
② 地理学的光達距離
地球が丸いことから、光が直進して地表面で遮られない最大の距離
③ 名目的光達距離
国際的な統一ルールに従った条件で見える距離 大気の透過率0.74 限界可視照度0.0000002 lx
④ 有効光達距離
航路標識の設計時に用いる距離 大気の透過率0.74 限界可視照度0.000001 lx
官報の告示など、標識のスペックを表すのに用いる光達距離は、①②の小さい方です。
海図や灯台表など、国際的に使用されるものでは、②③の小さい方です。
①の大気の透過率0.85は条件が非常に良い晴天暗夜ですので、③の平均的視程10海里(約19km)(大気の透過率0.74)の方が現実的といえます。
②の地理学的光達距離は、同じ光度でも、標識の光源の高さや観察者の目の高さで違ってきます。
海上保安庁では、観察者の目の高さを5メートルで算出しています。(国際的ルール準拠)
新人B 「課長、先ほどフェリー会社から●●灯台が消灯しているとの情報がありました」
課長C 「大至急、海事関係者への周知と、ジコホの打電をお願いね」
新人B 「ジコホ???(って何?)」
灯台などの航路標識に消灯事故が発生したときは、所管する海上保安部長が管区海上保安本部長あてに事故発生報告をします。
これを略称で「ジコホ」といいます。
また、整備・修理して消灯事故が解消されると、事故復旧報告(フクホ)をすることになっています。
課長C 「Bさん、30分後に本部長の庁内巡視があるから、各部各課にヨレイしておいてね」
新人B 「ヨレイですか???(予冷? 冷蔵庫で少し冷やせばいいのかなぁ)」
課長C 「いきなりだと皆困るだろうから、ヨロシクね」
号令は「動令」と「予令」に分かれており、行動を一斉に取らせるのが動令で、あらかじめ行動に移る心構えを取るように要求するのが予令です。
例えば、「総員起こし5分前」が予令で、「総員起こし!」が動令となります。
最近では、開始時刻等が迫っていることを知らせるために鳴らすベルという意味で、「予鈴」の漢字を使うことが多いです。
新人B 「係長、先日の休みの日に佐田岬灯台へ行ったっんですけど、場所によっては陸上から灯台の明かりが見えなかったんですよ」
係長A 「あの灯台にはアンコがあるからね~」
新人B 「アンコですか???(灯台って回転焼だったのか!)」
係長A 「メイコ、ブンコ、アンコはセットで覚えておいてね」
新人B 「???(何の姉妹なんだぁ~)」
「明弧(メイコ)」は、灯台等の航路標識の光が見える範囲を円弧で表したものです。
ほとんどの防波堤灯台などは360度全周から見えますが、大きな沿岸灯台や後背地に住宅があるような所では、不必要な陸上部分に光が出ないよう遮蔽しています。
この光の見えない範囲を「暗弧(アンコ)」といいます。
また、「分弧(ブンコ)」は明弧の一部分だけ違う色の光を出して、岩や暗礁などの障害物を示すものです。
これらの範囲は、海図や灯台表に記載されています。
佐田岬灯台(愛媛県西宇和郡伊方町)の明弧は、265度から214度(海上から(時計回りで)見た角度)です。
新人B 「宇和島海上保安部の巡視艇(PC)「たかつき」って、令和5年1月就役の新造船でしたよね」
係長A 「そうだよ。何か気になることでも?」
新人B 「それ以前は巡視船(PS)「たかつき」だったって聞いたんですけど、どうして船名は変わらなかったんですか???」
係長A 「良いところに気がついたね。訓令では巡視船PS型の船名は『山又は海岸の名称』を付けることになっているよね。」
新人B 「だから四国西南地域最高峰の『高月山』が船名の由来だったんですよね。」
係長A 「巡視艇PC型は、『ゆき』や『きり』、『くも』、『つき』等を含む名称と決められているよ。」
新人B 「そうか! たまたま(?)『つき』が入っていたから船名を変えなくても良かったんですね(笑)」
係長A 「地域の方々にも慣れ親しんでもらえている「たかつき」の名を引き継いだのは、イイネ!!」
「海上保安庁の船舶の番号及び名称の付与基準」で定められた主なものは、次のとおりです。
PLH(ヘリ2機搭載型) 日本国の古称、時代区分の名称、季節又は時間帯を表す名称 ex)あきつしま、しゅんこう
PLH(ヘリ1機搭載型) 地方の古称又は海峡の名称 ex)つがる、せっつ
PL 半島、岬、湾、島又は湖の名称 ex)こしき、とさ、くにさき
PM 河川の名称 ex)くろせ、きたかみ、いしかり
新人B 「昨年度に予算要求していた事業計画、あれ、どうなったんですかね?」
課長C 「本店から白パン来てたでしょ」
新人B 「白パン???(ペーターのおばあさんが好きなパンのこと???)」
課長C 「Bさんにもメールで白パン送っているから、ちゃんと見ておいてね」
「白パン」は、白地の紙に黒色で印刷された白黒のパンフレットのことです。
予算や法制度の概要、統計情報など様々な白パン(白黒パンフレット)が発行されています。
海保というより霞ヶ関界隈での業界用語なので、新人Bさんが知らなかったのも無理はありません。
係長A 「Bさん、本日10時から、明日の辞令交付式の建付けするから、準備お願いね」
新人B 「建付けですか???」
係長A 「そう、た・て・つ・け! ちゃんと実施要領も目を通しておいてね」
新人B 「はい...(襖か障子の調整でもするのかなぁ...)」
「建付け」は、行事・イベント(辞令交付式や長官視察等)の前に実施する「事前練習」のことです。
建付けをすることによって、敬礼や扉開閉のタイミング、職員の立つ位置などの確認や微調整をします。
元々は建て具の収まり具合(ドアの建付けが悪いとか)のことですが、海上保安庁では「予行」という意味になります。
新人B 「交通課がやっている航路標識の維持・管理って、灯台守も居るんですよね。この前、映画で観ました。(おいら岬の~♪)」
係長A 「今は灯台も全て無人化され、日本には灯台守は居ないよ」
課長C 「長崎県の女島灯台が、最後の有人灯台だったね。平成18年12月に滞在勤務が解消されているよ」
係長A 「昔と比べて航路標識機器の信頼性も著しく向上しているけど、時代の流れとは言え寂しいですね」
課長C 「アメリカのサンフランシスコでは、宿泊施設化した歴史ある灯台の管理とお客さんの世話をする灯台守を、年棒2千万円で募集していたのが話題になったよね」
新人B 「まさにアメンリカンドリーム! 応募してみようかな(真剣)」
新人B 「第一種制帽の帽章には梅が描かれてますよね。渋いなぁ、桜とかの方がカッコイイと思いますが?」
係長A 「戦後、海上保安庁が設立されたときに、旧帝国陸海軍の象徴であった「桜」「錨」「星」の使用をGHQから禁止されたんだ」
課長C 「梅は、寒い冬にどの花よりも早く咲いて、花が散っても実は梅干しなどになり、常に衆民とともにあるとして、初代長官である大久保氏が採用したんだよ」
係長A 「梅干しは、弁当やおにぎりに入っていて身近だし、国民に寄り添っていち早く事件事故に対応する海上保安官のイメージが、この梅の精神にピッタリですね」
新人B 「私の好きな言葉は「耐雪梅花麗」です(はーと)」
課長C 「西郷隆盛の漢詩の一節だね。雪に耐えて梅花麗し」
係長A 「Bさんにも、麗しい成果を期待していますよ」
新人B 「はい...」
新人B 「係長、管区海上保安本部の本部長と本部次長は、同じ階級(一等海上保安監)なのに、どうして階級章が違うのですか?」
係長A 「おっ、良いところに気が付いたね。海上保安庁職員服制という省令を調べてごらん」
新人B 「制服や階級章の規格が書かれている規則ですね」
係長A 「そこには、一等海上保安監の階級章は、甲と乙の2種類があるでしょ」
新人B 「本当だ。一等海上保安監(甲)は管区海上保安本部長と、これと同等の官職と長官が定めた一等海上保安監なんですね」
管区海上保安本部長と同等の官職は、次のとおりです。
本庁部長
首席監察官
参事官
海上保安大学校長
海上保安学校長
係長A 「企画課のDさん、来月に異動なんだってね」
新人B 「そうなんです、初めての巡視船勤務になるから、制服を貸与してもらわなきゃ、って言ってました」
係長A 「その巡視船、冬用の制服を着なくていいから、貸与品も少なくて済むね」
新人B 「冬季制服、着用しない部署があるんですか???」
制服は、夏季・冬季と儀式・通常とで、第一種~第四種の4種類があります。
夏季制服(第二種及び第四種)の着用期間は、原則、6月1日から9月30日までとなっていますが、各地方の気候等に応じて、管区海上保安本部毎に特例期間が設けられています。
例)第六管区海上保安本部(瀬戸内海) 5月10日から10月10日まで
例)第十一管区海上保安本部(沖縄県) 3月 1日から11月30日まで
この特例期間により、全管区で唯一、夏季制服着用期間が「通年」となっているのが、「小笠原海上保安署」です。
課長C 「Bさん、来週、専門官と一緒に○○方面の航路標識点検に行ってきてね」
新人B 「了解です」
課長C 「△△灯台はシーディーエスの交換時期だから、忘れないでね」
新人B 「CDS???(何か難しそうな装置かなぁ...)」
「シーディーエス」は、硫化カドミウム(CdS)を主成分とする光導電素子の一種で、光の当たる量によって抵抗値が変化します。
航路標識(灯台、灯浮標等)は無人ですので、CdSの特性を利用して、日没等で暗くなると自動的に灯りが点くようになっています。
最近ではCdSの代わりにフォトダイオードやフォトトランジスタ等の半導体が使われていますが、これらもベテラン職員の間では「シーディーエス」と呼ばれているらしいです。
教 官 「これより実習艇の出港準備にかかれ!!」
学 生 「了解!!」
教 官 「岸壁に舫(もやい)を放す人がいないため、あらかじめロープはバイトでとっておくように」
学 生 「バイト???(ロープの代わりにアルバイトを雇うのかなぁ...)」
「バイト(bight)」というのは、ロープの先の輪のことですが、ロープ全体で輪を作るようにするのが、「バイトにとる」です。
係留用ロープを、船から岸壁のビット(係船柱)を経由し、また船に戻すようにして固定します。
巡視船でも、バイトにとっておいて、乗組員が全員乗船してから、ロープを滑り出し解らんすることにより、岸壁上に人を配置せずに出港することがあります。
課長C 「Bさん、本店から営業成績を報告するようにとメール来ているから、よろしくね」
新人B 「了解しました。どなたあて回答したらいいですか?」
課長C 「メールに、ショウショクあてってなっているでしょ」
新人B 「少食???(大食いだと駄目なのかなぁ...)」
「小職」は、メールやメモ等で、自分の身分・官職をへりくだって表現する言葉です。
本来、一定の役職に就いている人が、自分を敢えて小さく見せるために使いますが、最近では、係員でも頻繁に使用しているようです。
(係員がへりくだっても仕方ないのに...)
係長A 「Bさん、今度、交通部の研修あるから参加してきて」
新人B 「了解です」
係長A 「コウチョウ業務とか、勉強になるから頑張ってね」
新人B 「校長業務???(校長先生の仕事を習うのかなぁ...)」
「コウチョウ業務」は、海上交通ルールの1つである港則法に基づく許認可や届出受理をする仕事のことです。
港則法で定められた特定港(全国に87港)には、港長(コウチョウ)が任命されていて、基本的には該当港を管轄する海上保安部長または海上保安署長が兼任しています。
港則を執行する責任者である港長の仕事なので、港長業務と呼ばれています。
課長C 「Bさん、文書係へ行って、この書類にソムチの公印を貰ってきて」
新人B 「ソムチ??? (キムチは知っているけど...)」
課長C 「早く関係先に送りたいから、よろしく~」
新人B 「???」
「ソムチ」とは、総務部長のことで、海保の通信が電報(テレタイプ)メインだった頃の略号です。
現在ではメール形式が主流で、略号を使うこともほぼ無くなっています。
例)「カイコツチ」 海上保安庁交通部長
例)「6チ」 第六管区海上保安本部長
例)「マヤチ」 松山海上保安部長
例)「セチ」 船長
係長A 「Bさん、この段ボールをレッコしてきて」
新人B 「レッコ???」
係長A 「そうそう、今日は資源回収日だから」
新人B 「???」
「レッコする」とは、捨てる、縁を切る、海中投棄などの意味がある旧海軍用語で、語源は「Let's go」らしいです。
現在でも一般の船員さんや海保で頻繁に使われています。
例)「アンカー、レッコー」 錨を入れる