正徳4年(1714年)に建立され、明治初年までの約150年にわたり灯明が入れられ、沖合を行く船舶の目印となっていました。
現在の灯籠堂は、昭和61年に当時の台石の上に再建されたもので、灯籠堂の台石の幅は約5.3メートル、台石を含めた高さは約12.5メートルあります。
【一服】
○「灯明台」「灯籠堂」「常夜灯」について
「灯明台」「灯籠堂」「常夜灯」など「灯台」も昔は色々な呼び方で呼ばれていたようです。筆者も、この微妙な言葉の使い分けてについて、正直なところよく分からないのですが考察してみました。
神仏に供える灯火のことを「灯明」と言い、「灯明台」の語源ではないかとも思われますが、江戸時代になり、夜間海上を往来する船舶等の指標として我が国独自の灯台が建てられるようになった頃、その建造物(灯台)を「かがり屋」とか「灯明台」と呼んでいたようです。「灯明台」と呼ばれる建造物は、石積みの台の上に小屋を建て、その中で木(油)を燃やす仕組みになっており、もとより灯台の役割を果たすために建てられた建造物であったと考えられます。
灯火をともす器具の一つに「灯籠」があります。木や竹で造られ周りを油紙障子などで囲ったものから石や金属で造られたものなど、灯籠には様々なものがあります。「灯明台」も石造りや木造の小屋の上に木造の灯籠をのせた物が多かったようですが、「堂」が大きな建物を表す言葉として用いられることから、しっかりとした建物様の灯籠なので「灯籠堂」と呼ばれたのではないかと思います。
神社や寺院に建てられている石灯籠で、夜ごと火を灯すものが「常夜灯」と呼ばれています。海岸近くに建てられた神社や寺院の「常夜灯」は、船舶にとって灯台の役目を果たし、海上を往来する船舶に利用されていたことから、そのまま「常夜灯」と呼ばれていたのではないかと思います。
「日本灯台史」の中に興味深い記述を見つけたので、ご紹介します。
『 燈台の火がこのように微々たるものであったので、一般の燈火と光力の点ではいちじるしい相違はなく、燈台のほかに古くから神社仏閣の常夜燈が航海の好目標として利用された。摂津国住吉神社は古来海神として信仰されているが、平城天皇の年間(800年頃)、僧空海が石燈籠を寄進して以来諸方から寄附があり、とくに出見浜に建てられた高燈籠は海岸に屹立し、高さ海面上70尺、この燈火は約2里の海上から望見され、航海の好目標であったと伝えられている。各地に、このように神社の燈籠の火で航海の目標とみられたものがあり、船の利用のため終夜点燈されたものが少なくなかった。
江戸時代では、上記住吉神社の高燈籠のほか、磐城の江名合磯埼常明燈、江戸神田明神常明燈、武蔵国羽田弁天高燈籠、桑名赤須賀地蔵常燈籠、羽後酒田日和山明神常夜燈などが著名である。』
このように、「高燈籠」「常明燈」「常燈籠」などとも呼ばれていたようです。
今回は、江戸時代に瀬戸内海地方に設置された5カ所の灯籠堂等について、ご紹介してみました。今回ご紹介した灯籠堂等が建立された港は、風待ち・潮待ち時などに船舶の停泊地として最適の場所であり、古代から瀬戸内海の海路の要衝の地として栄え、いずれも西国大名の参勤交代や諸国廻船の来泊に加え、朝鮮通信使の寄港地であったことが共通点としてあげられます。
豊臣秀吉の朝鮮出兵を契機に西海航路が整備され、要所には「海駅」が設けられ、江戸幕府もこれを継承して「海駅」を整備し、国内海運の著しい活発化に伴い、1600年頃から船舶交通の安全を確保するために瀬戸内海を中心に灯明台の設備が進みました。
対馬でも朝鮮との船舶の往来が活発となり登楼を設けていましたが、寛永18年(1641年)に江戸屋敷から「鰐浦口と府中浦口に新たに灯楼台を備え、府中浦口は瀬戸内のものと同様にせよ」との指示があり、府中浦口(耶良埼)に灯明台を設置することになりました。またその頃、対馬藩は朝鮮通信使の随行役として海路(船舶)にて瀬戸内海を往来しており、瀬戸内海に設置されている灯籠堂(常夜灯)を利用していました。
このような背景から、今回ご紹介した灯籠堂等のうち1641年以前に建立されていたのは下蒲刈島三之瀬港の常夜灯のみですが、対馬藩が耶良埼に設置する灯明台のモデルとして、瀬戸内海に設置されていた灯楼堂を参考にしたとの推察も十分に成り立ち、書状跡付(寛永十八年六月二六日付)に書かれている「瀬戸内」を「住吉瀬戸(鴨居瀬)」と解さず、文字どおりの「瀬戸内海」と解することもできるのではないでしょうか(耶良埼灯台・古代のロマン〜その3
参照)。
次回は、大正13年に耶良埼灯明台に替わり厳原町が設置した「耶良埼灯竿」及び昭和23年に耶良埼灯竿が海上保安庁に移管された当時の状況などについて、当時の記録や写真などを織り交ぜながらご紹介したいと思います。
[参考資料]
「つしま百科」
編 集 つしま百科編集委員会
発 行
長崎県対馬支庁(現 長崎県対馬地方局)
発行日時 平成14年3月25日
「日本灯台史」
編 集 海上保安庁燈台部
発 行 社団法人 燈光会
発行日時 昭和44年6月30日
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